建設業の経営事項審査(経審)は、公共工事の入札参加資格を得るための重要なステップです。その評価の基になるのが完成工事高であり、この数値が税務署に提出した確定申告書の内容と整合していることが求められます。
特に消費税の確定申告書に記載される課税標準と、経審で申告する完成工事高(税抜)が不一致である場合、審査機関からの厳しい指摘や、最悪の場合には申請のやり直しを命じられるリスクがあります。
今回はこの不一致がもたらす注意点と対策を解説します。
原則、完成工事高(税抜)と課税標準は一致する?
原則として、経審で申告する完成工事高は、公共工事入札を前提としているため、消費税抜きの金額で計上することが基本です。ちなみに免税事業者の場合は税込となります。
一方、消費税の確定申告書に記載される課税標準とは、その課税期間の課税売上高(税抜)の合計を指します。
建設業者の売上高の大部分は建設工事による課税売上であるため、理論上は以下の関係が成立します。
完成工事高(税抜)≠消費税確定申告書の課税標準
この原則から外れる場合、審査側は建設工事による完成工事高を正確に把握できていない、あるいは水増し計上をしているのではないかと疑念を持たれるおそれがありますので注意が必要です。
不一致が生じる具体的な原因と申請上のポイント
不一致が生じる原因として、いくつかのパターンがあります。以下の点を申請前にチェックする必要があります。
チェックポイント①:完成工事高に兼業売上や雑収入が含まれていないか?
課税標準が完成工事高を上回る場合、最も多い原因がこれにあたります。
建設業者が、物品販売、不動産賃貸、車両運搬、資材の売却など、建設工事の請負契約によらない兼業事業や雑収入による課税売上を計上している場合、その金額が課税標準には含まれても、経審の完成工事高には含めることはできません。
この場合、財務諸表(損益計算書)の売上高の総額から、完成工事高以外の課税売上項目を明確に分離し、その内訳を説明できるように資料を準備する必要があります。この差額が、兼業売上や雑収入と整合していれば問題ありません。
チェックポイント②:完成工事高を消費税込みで計上していないか?
経審の完成工事高を、誤って消費税込みで計上しているケースです。
課税事業者であるにもかかわらず、税込みで計上してしまうと、完成工事高が課税標準額を10%(消費税率)上回る結果となり、水増し計上を疑われる可能性がありますので注意が必要です。
万一、誤りがあれば、経審の評価項目である経営状況分析(Y点)の申請からやり直す必要が生じ、申請スケジュールの遅延となります。
チェックポイント③:工事経歴書と完成工事高の合計額の整合性は取れているか?
最も手間と時間を要するのが、工事経歴書に記載されている個別の工事内容と、完成工事高の合計額の整合性を欠いているケースです。
審査機関によっては、工事経歴書に記載されている工事の中で、その会計年度に完成したにもかかわらず、完成工事高の合計に反映されていない工事がないか、またはその逆がないかを厳密にチェックします。
ここに不整合があると、完成工事高の正確性そのものに疑義が生じ、審査機関から工事経歴書および直近3年間の完成工事高の補正(修正)指示を受けることになります。この指示が出た場合、申請者は全ての工事記録を遡って見直し、顧問税理士へ正式な決算書の訂正と、それを踏まえた経審の再申請が必要となります。
納税証明書と確定申告書の不一致への対応
経審申請では、納税証明書(その1:納付すべき額、その2:所得金額)の提出も求められます。この納税証明書に記載された納付すべき税額と確定申告書に記載された差引所得税額や納税額が一致しない場合、審査機関は必ずその理由を確認します。
確認するべき事項
この不一致の最も一般的な原因は、確定申告後に修正申告(税額が増加)や更生の請求(税額が減少)を行っている場合です。
修正申告が行われた場合、納税証明書の納付額は修正後の金額となりますが、当初提出した確定申告書の記載は修正前の金額のままです。
まずは納税証明書を確認し、当初の確定申告書と不一致がある場合は、必ず顧問先の税理士に修正申告・更生の請求を行っていないかを確認し、その控えや修正後の決算書を審査機関に提出できるように準備する必要があります。
まとめ
完成工事高と課税標準の不一致は、企業の財務情報に対する信頼性に関わる問題といえます。税理士が作成した決算書と、経審申請書類の間で矛盾が無いかを検証し、完成工事高と課税標準の整合性を確認することが不可欠です。
経審申請のスケジュールや、具体的な工事経歴書の作成でお困りがあれば当事務所へお気軽にご連絡ください。
「グラス湘南行政書士事務所」