建設現場でよく耳にする、主任技術者、現場代理人、監督員という言葉。これらは全て現場に関わる重要な役割ですが、それぞれの立場や職務、選任の根拠には明確な違いがあります。
「誰にどの役割を任せるべきか」、「それぞれの責任範囲はどこまでか」を正しく理解することは、適正な施工体制を構築し、円滑な工事を進めるうえで、不可欠です。
今回は、神奈川県をはじめとする全国の建設業者の方々に向けに、これら三者の違いを建設業法などの法令に基づいて、解説します。
主任技術者(監理技術者)とは?
設置の目的
建設工事の適正な施工を確保するため。
主な職務
施工計画の作成、工程管理、品質管理、安全管理など、工事全体の技術的な事項を統括します。また、下請業者への技術的な指導監督を行います。
資格要件
主任技術者となるためには、国家資格(一級・二級施工管理技士、建築士など)または一定の実務経験が必要です。
専任義務
請負金額が4,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上の公共性のある重要な工事では、専任が義務付けられています。
監理技術者との関係
発注者から直接請け負い、4,500万円(建築一式工事は7,000万円)以上の工事を下請契約する場合、主任技術者に代わって、より高度な資格を持つ監理技術者を配置する必要があります。
主任技術者も監理技術者も、工事の技術的な責任者という点で共通していますが、請負金額や下請契約の有無によって求められる資格と名称が異なります。
現場代理人とは?
現場代理人は、発注者と請負業者(元請)との間の契約に関する責任者です。主任技術者とは異なり、その設置は建設業法ではなく、主に工事請負契約書(約款)に基づいています。
設置の目的
契約上の役割として、請負業者(会社)に代わって現場を統括し、発注者との連絡・調整を円滑に行うため。
主な職務
請負業者の代理として、現場の運営全般に関する事項を処理します。
また発注者や監督員との折衝・連絡調整や契約図書(設計図書、約款など)の実行に関する事務的な統括を行います。
資格要件
特段の国家資格は義務付けられていませんが、契約約款に基づき、一定の権限(請負代金の受領などに関する権限を除く)を発注者に通知する必要があります。
専任義務
公共工事などでは、主任技術者(または監理技術者)と兼任できる場合と、専任が義務付けられる場合があります。神奈川県内の自治体によっては、金額基準や工事内容により兼任の可否が定められています。
主任技術者との違い
主任技術者は技術を、現場代理人は契約、事務の責任者という点が相違点といえます。現場代理人は、主任技術者の行う技術的な指導監督の環境を整える役割を担います。
監督員とは?
監督員は、発注者側(国、自治体、民間企業など)が任命する、工事の監督・検査を行う業者です。
設置の目的
発注者の立場から、工事が契約図書通りに適切に実施されているかをチェックし、現場代理人への指示などを行います。また工事の立ち会い、資料の確認、中間検査などを実施し、設計図書の内容確認や、仕様変更の協議などを行います。立場は、建設業者(請負人)の組織外であり、発注者の利益のために職務を遂行します。
3つの役割比較表
| 項目 | 主任技術者(監理技術者) | 現場代理人 | 監督員 |
| 設置根拠 | 建設業法 | 主に工事請負契約書 | 主に工事請負契約書 |
| 所属する組織 | 請負業者(建設会社) | 請負業者(建設会社) | 発注者 |
| 主な責任 | 技術上の管理と指導監督 | 契約・事務上の運営統括 | 契約図書通りの施工確保 |
| 資格要件 | 国家資格または実務経験が必須 | 特段の資格要件はなし | 特段の資格要件はなし |
| 専任の有無 | 金額により専任義務あり | 契約により専任義務あり | ― |
建設業者として留意するべき点
神奈川県内で公共工事を受注される場合、各自治体の工事請負契約約款や、現場代理人及び主任技術者等に関する取扱要領などを確認することが重要です。
兼任の可否
工事場所が同一、または請負代金が基準以上など、一定の条件を満たせば、現場代理人と主任技術者(監理技術者)の兼任を認めているケースが多いです。しかし、契約内容や工事の特性によっては専任が求められるため、事前に確認が必要です。
権限の明確化
現場代理人を選任する際は、代理できる権限の範囲を発注者に書面で通知する必要はあります。
法令遵守の徹底
主任技術者等の技術者資格の適正配置は、建設業許可を維持するための基本です。配置基準を満たさない場合は、建設業法違反として、営業停止処分などの刑罰を受ける可能性がありますので注意が必要です。
まとめ
適正な施工体制は、建設業を営む上で、根幹といえます。これら三者の役割を理解し、適切な人材を配置することが、法令遵守と円滑な現場運営への第一歩となります。
施工体制に関するご不安や、建設業許可申請、各種変更届などでお困りのことがございましたら、当事務所までご連絡ください。
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