昨今の建設業界は、人手不足と高齢化という喫緊の課題に直面しています。
この状況を乗り越え、未来へ持続可能な産業とするためには、現場を支える技能者の地位向上と、建設業者を大切にする環境づくりが不可欠といえます。
特に、若い方が安心して入社し、長くキャリアを築けるよう適正な賃金や社会保険への加入、そして技術者の研鑽ができる環境の整備が求められています。
このような背景から、国土交通省は、技能者の処遇改善を後押しするための新たな枠組みとして、「建設業者を大切にする企業の自主宣言制度」を創設しました。
今回は、この制度の概要と企業が取り組みべき具体的なステップ、そして自主宣言がもたらすメリットについて解説します。

「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」とは?

この制度は、技能者の処遇改善に積極的に取り組む建設業者を後押しするために、国土交通省が創設した任意の制度です。
これは、国や公的な機関が企業を認定するものではなく、企業自らが以下の3つの基準を満たすことを自主的に宣言し、その取り組みを公表するものです。

宣言① 社会保険加入の徹底

全従業員の社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)への加入を徹底します。

宣言② 適切な賃金の支払い

建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用し、能力と経験に応じた、適切な賃金を支払います。また、賃金水準の向上に資する明確な取り組みを行います。

宣言③ 技能向上への取り組み

技能者のキャリアパスを明確にし、計画的な教育・訓練を実施するなど、技能向上を支援します。
この宣言を行うことで、技能者を大切にしている企業としての姿勢を取引先や求職者に対して、示すことができます。

なぜ自主宣言をする必要があるのか?企業のメリットとは?

自主的な宣言とはいえ、この制度への参加は企業にとって、いくつかのメリットがあります。

メリット1:優秀な人材の確保と定着

自主宣言は、誠実で人を大切にする会社という、イメージを持たれ、特に賃金や待遇を重視する若い方の求職者にとって大きなアピールポイントとなります。宣言企業は、ハローワークの求人票等でその旨を記載できるため、採用活動において他社との差別化が図れます。また、処遇改善は離職率の低下にも直結します。

メリット2:公共工事・入札での優遇

自主宣言を行った企業は、国土交通省が発注する公共工事の入札において、総合評価落札方式の評価項目で加点されるなどの優遇措置を受けることができます。これは、受注機会と経営の安定化に繋がるといえます。

メリット3:企業イメ―ジと信頼性の向上

元請けや協力会社などの取引先や発注者に対し、コンプライアンスを重視し、業界の健全化に貢献している企業として高い信頼性を示すことができます。取引先にとっては、信頼できる協力会社を選定する際の、判断材料に一つになります。

メリット4:建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用促進

制度の基準の一つに、CCUSの活用が盛り込まれており、宣言プロセスを通じてCCUSの導入・運用が促進されます。これは、技能者の能力や就業実績を見える化し、処遇改善の土台となります。

自主宣言の具体的なステップ

ステップ1:取り組みの実施

社会保険加入の徹底、賃金水準の確認・向上、教育体制の整備など、3つの基準(宣言)を満たすための具体的な取り組みを実施します。

ステップ2:CCUSへの登録

事業者情報及び技能者情報の登録が必要です。

ステップ3:宣言の作成・公表

企業の公式サイトやCCUSの事業者情報登録画面などで、3つの基準への取り組み状況を自主的に宣言し、公表します。

ステップ4:優遇措置の適用

公共工事の入札参加時に、自主宣言を行っている旨を、申請書類に記載します。

まとめ

「建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度」は、手続きや義務に留まらず、人を育て、大切にするという、企業理念の根幹に関わる宣言といえます。
技能者が報われ、働きやすい環境を整備することで、企業の競争力強化に直結し、建設業界全体のイメージアップにも繋がります。
自主宣言制度に関するご相談、CCUS登録やその他の建設業許可手続きについて、ご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。
グラス湘南行政書士事務所