建設業を営む皆様にとって、建設業許可の更新は事業継続に欠かせない重要な手続きです。この更新申請の際に、意外と見落とされがちなのが、役員の任期に関する問題です。特に株式会社の場合、役員(取締役、監査役など)には任期があり、これを更新しなかったために、申請がストップしてしまうケースがあります。
今回は、許可更新申請時に許可行政庁がチェックする役員任期の注意点と万一、任期が切れていた場合の対応について解説します。
役員任期が切れていると許可更新はできない?許可行政庁の厳格なチェックとは?
建設業許可の更新手続きにおいて、許可行政庁(都道府県知事または国土交通大臣)は、申請書類の内容を行政の持つ情報と照合し、許可要件を満たしているかを審査します。
履歴事項全部証明書で確認される役員情報
許可行政庁が申請内容を確認する際に、必ず参照するのが法務局が発行する履歴事項全部証明書(商業登記簿謄本)です。この証明書には、会社の商号、本店所在地、資本金といった基本情報に加えて、役員の氏名、就任年月日、そして任期満了日などが詳細に記載されています。
許可行政庁は、この履歴事項全部証明書に記載されている役員情報と、更新申請書に記載された役員リストを照合します。
・申請書に記載された役員が、登記簿にも記載されているか。
・各役員の任期が満了していないか。
特に注意が必要なのが、任期の満了です。
役員任期切れは、欠格要件に該当する可能性とみなされる
株式会社の取締役の任期は、原則として2年(非公開会社は定款で最長10年まで延長可能)です。監査役の任期は4年です。任期が満了する際には、同じ人物を再度選任する重任(再任)の手続きを行い、その旨を法務局に重任登記しなければなりません。
この重任登記を失念し、履歴事項全部証明書上の役員の任期が切れた状態、つまり役員が退任した状態になっていると、許可行政庁は、以下のような疑問を持つことになります。
「この法人は、建設業の経営業務の管理責任者(現・常勤役員等)や専任技術者など、許可要件に必要な役員体制を維持できているのだろうか?」
任期が切れている状態は、許可要件(特に経営業務の管理責任者の要件)を一時的に満たしていない、あるいは役員の選任手続きに問題があると見なされ、申請は受理されない又は、審査がストップするなどの恐れがあります。
重任登記のし忘れがあった場合の対策とタイムスケジュール
更新申請時に役員の任期切れが発覚した場合、速やかな対応が必要になります。
まずは株主総会議事録を作成し、重任登記を行う
役員の任期が切れていた場合、許可更新申請を再開するために必要な措置は、法務局で重任登記を完了させることです。
株主総会の開催(書面決議を含む)
任期が切れる前の状態で遡って、株主総会を開き、その役員を改めて選任(重任)する決議を行う必要があります。この際の株主総会議事録を作成します。
法務局への登記申請
作成した議事録などを添付して、法務局に役員変更(重任)の登記を申請します。
新たな履歴事項全部証明書の取得
登記が完了した後、役員の任期が正しく記載された新しい履歴事項全部証明書を取得します。
登記手続きにかかる時間的コストを見積もる
この登記手続きには、一定の時間がかかります。
株主総会議事録等の準備
会社の状況にもよりますが、数日~1週間程度。
法務局での登記完了
法務局の混雑状況にもよりますが、申請から1週間~2週間程度かかるのが一般的です。特に年度末などの繫忙期はさらに長くなる可能性があります。
このため、更新申請の期限(許可の有効期間満了日の30日前)が迫っている状況で任期切れが発覚すると、申請期限に間に合わなくなるリスクがありますので注意が必要です。
建設業許可の更新申請は、有効期間満了日までに申請が受理されていなければ、許可は失効します。許可が失効すると、無許可営業となり、工事の請負(軽微な工事は除く)ができなくなります。
遅延を防ぐためのチェックリスト
更新申請の遅延、そして最悪の場合の許可失効を防ぐためには、事前の準備と専門家の活用が不可欠といえます。
建設業許可の更新時期に関わらず、株式会社は少なくとも10年に一度、役員に変更がなくても重任登記をしなければならない義務(休眠会社のみなし解散を避けるため)があります。この機会にぜひ以下の点を定期的にチェックする体制を築きましょう。
履歴事項全部証明書(登記簿)の確認
履歴事項全部証明書に記載されている役員の変更の年月日を確認し、任期満了日が迫っていないかチェックリストを追加する。
定款の確認
役員の任期に関する定款の規定(2年か10年かなど)を再確認する。
行政書士と司法書士との連携の重要性
行政書士は、建設業許可の要件、申請書類、許可行政庁との調整の専門家です。一方、司法書士は、役員変更などの登記手続きの専門家です。
当事務所では、このような更新申請の注意するべき点を事前に発見し、登記手続きと並行して申請書類の準備を進めます。建設業許可の更新は、事業の継続を左右する重要なプロセスといえます。役員任期の確認を怠らず、ゆとりをもって手続きを進めることが肝要です。
※重任登記などの役員変更の登記は当事務所提携の司法書士にてサポート致します。