建設業界は、働き方改革、資材高騰、そして人手不足といった多くの課題に直面しています。こうした状況の中、建設業の持続可能性を高め、働く人々の環境を改善するために、建設業法改正の動きが進んでいます。
特に令和7年12月、建設工事の請負契約における「標準労務費」の導入を含む重要な改正が施行される見込みです。この改正は、元請・下請の関係、ひいては建設業界全体に大きな影響を与える可能性があります。
今回は、改正のポイント、特に建設事業者の皆様が知っておくべき標準労務費について解説します。
なぜ今、建設業法の改正が必要なの?
今回の改正の背景には、主に以下の点があります。
1.適正な賃金水準の確保と労働環境の改善
長時間労働の是正や、若年層の入職を促すため、適正な賃金の支払いが喫緊の課題となっています。特に下請業者へのしわ寄せを防ぎ、技能労働者への適切な処遇を促す必要があります。
2.インボイス制度への対応と透明性の向上
令和5年10月から導入されたインボイス制度(適格請求書保存方式)に伴い、消費税の取扱いを含め、建設工事の契約や発注における原価の明確化が求められています。
3.建設工事の品質確保と生産性向上
賃金が適正に支払われないと、技術者の流出や手抜き工事のリスクが高まります。適正な対価を支払うことで、品質の高い工事を確保し、DX化などによる生産性向上への投資を可能にする環境整備が必要です。
改正の目玉「標準労務費」の導入とは?
今回、改正の要素でもある標準労務費の導入とはどのようなものでしょうか。
これは、下請契約においても、技能労働者に支払われるべき賃金相当額を明確化し、その適正な支払いを担保するための仕組みです。
標準労務費の概要
標準労務費とは、国が定める合理的な積算基準に基づいて算出される、特定の建設工事における技能労働者一人当たりの労務費の目安となるものです。
これは従来の請負金額に含まれる労務費部分をより明確にし、以下の目的で活用されます。
元請業者による下請代金の算定基礎
元請業者が下請業者と契約を締結する際、この標準労務費を考慮した適正な下請代金を設定するよう努めることが義務付けられています。不当に低い下請代金での契約は、厳しく規制されることになります。
見積内訳書への記載の義務
元請業者は、発注者に対して提出する見積内訳書において、労務費相当額を明記することが義務付けられます。これにより、工事のコスト面の透明性が高まります。
不当な代金減額の是正
下請業者が技能労働者に適切な賃金を支払えるよう、元請業者が標準労務費を下回るような代金や減額を行うことが、より強く禁止されます。
なぜ標準労務費が重要なのか?
標準労務費が導入されると、これまで慣習的に行われてきた叩き合いによる下請代金の決定が制限されます。
これは、特に下請として働く建設事業者の皆様にとっては、適正な利益の確保と技能労働者への処遇改善に直結する大きなメリットとなります。逆に、元請業者にとっては、より公正で透明性のある契約締結が求められるようになります。
改正で建設事業者がするべき対応は?
令和7年12月の改正施行に向けて、建設事業者は以下の対応、準備をしておく必要があります。
①見積・契約実務の点検と改善
見積積算体制の強化
標準労務費を考慮した適正な積算ができるよう、積算担当者の教育や積算ソフトの更新が必要です。
見積内訳の透明化
下請発注の際も、標準労務費に基づいた労務費相当額を明記した内訳書を作成・提示する体制を整えましょう。
②賃金台帳や労働時間管理の徹底
賃金の見える化
標準労務費を根拠として、自社の技能労働者に適正な賃金が支払われているかを確認し、改善が必要です。
労働時間の適正管理
適正な労務費を支払う前提として、時間外労働の上限規制(罰則付き)の遵守は必須といえます。
④許可要件への影響
建設業許可要件への影響
建設業許可の財産的基礎や誠実性の要件にも、適正な契約履行がより一層求められます。
入札参加資格への影響
公共工事入札参加資格においては、社会保険加入や労働条件の遵守が既に厳しく問われています。今回の改正により、その審査基準がさらに強化される可能性があります。
まとめ
標準労務費の導入は、経営を見直す機会といえます。法令順守を徹底し、適正な価格で良好な工事を受注・施工できる体制を築くことで、建設業全体の発展を促す重要な改正といえます。当事務所は、建設業許可申請はもちろん、各種変更届、入札参加資格申請を承ります。また、改正法に対応するための契約書作成や経営体制の整備についてもサポートさせて頂きます。お気軽にご連絡ください。
「グラス湘南行政書士事務所」