建設業を営む上で必須となる建設業許可。この許可は、一度取得すれば基本的に全国どこでも効力を持つとされています。
「許可を持っているから、他県でも何の問題もなく工事ができる!」
そのように思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実は、この全国どこでもという言葉には、多くの建設業者の方が見落としがちな重要な手続きと義務があります。他県での工事を計画する際、この盲点を突かれて、法令違反や不利益を被ってしまうケースがあります。
今回は、建設業者が他県で工事を行う際に必ず押さえておくべき点と、見落としがちな二つの重要な手続きについて解説します。
営業所所在地が変わらなくても変更届の提出が必要な場合がある
「他県で工事をするだけで、営業所の所在地が変わるわけじゃないから、行政庁への手続きは不要だろう」
これは多く見られる誤解です。
確かに、軽微な工事であれば問題はありません。しかし、以下の条件に該当する場合、営業所の所在地が変わらなくても、建設業許可を受けた行政庁へ変更届を提出しなければなりません。
①専任技術者の常勤体制の確保
建設業許可には、許可業種ごとに専任技術者の配置が義務付けられています。
他県での工事が長期にわたる場合、その現場に主任技術者または監理技術者を配置します。ここで注意が必要なのは、この現場技術者と、主たる営業所に配置されている専任技術者の関係です。
現場の規模工期によっては、専任技術者が他の営業所の専任技術者または現場の主任技術者・監理技術者を兼務できる場合があります。しかし、兼務ができない、あるいは兼務の条件を満たさない場合、新たな専任技術者の確保が必要になります。
もし、他県での現場配置によって、既存の専任技術者が営業所に常勤できなくなる(他の現場の技術者となる)場合や、新しく資格者を雇入れる場合は、専任技術者の変更または追加に関する変更届を提出しなければなりません。
これは2週間以内に提出が義務付けられている極めて重要な届出です。提出を怠れば、許可要件の不備となり、最悪な場合は許可の取消しにつながる可能性もありますので注意が必要です。
②経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有する者の常勤体制
許可の要件の一つである経営管理体制も、他県での工事展開によって影響を受けることがあります。
他県に支店や常設の事務所を設けて、そこで契約や見積もりなど、実質的な営業行為を行う場合、これは新たな営業所の設置とみなされます。
新たな営業所を設置する場合、許可を受けた行政庁に事前の届出が必要となるほか、その営業所にも専任技術者や適切な経営管理体制を裏付ける体制(例えば、執行役員等の配置)を整える必要があります。
資材置き場、連絡事務所のような通常の現場事務所であれば、問題ありませんが、営業行為を伴う事務所を設ける場合は、許可の内容(本店のみか、支店もか)の変更や、許可換え(知事許可から大臣許可へ)が必要になる可能性が生じます。
社会保険、労働保険の適用事業所の届出義務
建設業許可業者が他県で工事を行う際、注意するべき点は、営業所に関する変更届ですが、現場で働く従業員に関わる、重要な手続きがあります。それが労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)の取扱いです。
①労働保険
他県で工事を行う場合、その工事現場事自体が労働保険の適用事業所となります。
一括有期事業の届出(本社一括)
元請負業者として工事を行う場合、原則として工事開始後10日以内に、現場を管轄する労働基準監督署に対し労働保険一括有期事業開始届を提出する必要があります。これは、本社で包括して保険関係を成立させている場合でも、現場ごとの届出が必要です。本社所在地と異なる県の現場では特に注意が必要です。
②社会保険
社会保険(健康保険・厚生年金保険)についても、他県での工事規模や期間によっては、現場独自の適用事業所として届け出る必要があります。
事業所非該当承認申請(現場事務所が一時的な場合)
原則として、一時的な現場事務所は社会保険の適用事業所とはなりませんが、念のため年金事務所へ事業所非該当承認申請書を提出し、確認を取るのが肝要といえます。もし、現場に常設の営業機能を持たせる場合は、その現場を社会保険の適用事業所とする手続きが必要になります。
建設業許可の維持だけでなく、法令遵守(コンプライアンス)の観点からも、この労働・社会保険の現場ごと、地域ごとの手続きは、他県進出の際の最重要チェック項目です。
他県工事を行う前のチェックリスト
建設業許可を持つ業者が他県での工事を成立させるために、チェックリストの活用を推奨します。
| チェック項目 | 根拠となる法令・制度 | 行政庁・提出先 |
| 専任技術者の常勤性維持 | 建設業法 | 許可行政庁(知事/大臣) |
| 新たな営業所の設置有無 | 建設業法 | 許可行政庁(知事/大臣) |
| 労働保険一括有期事業開始届 | 労働保険徴収法 | 現場管轄の労働基準監督署 |
| 事業所非該当承認申請書 | 健康保険法・厚生年金保険法 | 現場管轄の年金事務所 |
まとめ
他県での工事は、事業展開の機会でもあります。しかし行政上の届出や保険の手続きを怠ってしまうと、事業展開がコンプライアンス違反という形で足かせになりかねません。
特に、専任技術者の常勤体制の維持は、建設業許可の生命線といえます。他県工事の規模や期間、そして現場技術者の配置計画を具体的に練り上げる段階で、ぜひ当事務所へご相談ください。皆様の円滑な事業展開を全力でサポートいたします。
「グラス湘南行政書士事務所」