建設業許可を取得すための要件は、多岐にわたり、中でも社会保険加入は重要度の高い要件の一つといえます。
「昔はそこまで厳しくなかったのに・・」「個人事業だから関係ないと思っていた・・」といった声もありますが、現在、社会保険への加入は、建設業許可取得には避けては通れません。
今回は、建設業許可と社会保険加入の関係と、どのような対応が必要なのか解説します。

建設業許可の基本要件と社会保険加入の位置づけ

建設業許可を取得するためには主に6つの基本要件を満たす必要があります。

要件1:経営業務の管理責任者(経管)がいること
要件2:営業所主任者等(専任技術者)がいること
要件3:財産的基礎または金銭的信用があること
要件4:欠格要件に該当しないこと
要件5:適正な社会保険に加入していること(今回のテーマです)
要件6:適正な事務所があること

このうち、適正な社会保険に加入していることについては、平成24年の法改正以降、段階的に厳格化され、現在では許可申請時や更新時の必須要件となっています。
これは、建設業業界における労働者の処遇改善と、法定福利費を適切に負担する企業の育成を目的とした国の施策です。法令を遵守する企業だけが許可を取得維持できる仕組みを徹底することで、業界全体の健全化を図っているのです。

建設業における適切な社会保険の概要

建設業許可で求められる適切な社会保険とは、具体的に以下の4つの保険への加入を指します。

・健康保険:法人や常時5人以上の個人事業所(業種問わず)
・厚生年金保険:法人や常時5人上の個人事業所(業種問わず)
・雇用保険:労働者を一人でも雇用する事業所
・労災保険:労働者を一人でも雇用する事業所では必要になります。建設業界では一括有期事業の適用を受ける場合が多いです。

用語の解説

一括有期事業

建設業や立木の伐採の事業において、主に小規模のような一定の要件を満たす複数の工事などの有期事業を、法律上ひとまとめにして一つの事業とみなす制度。

これにより、本来は工事ごとに必要となる保険の手続きを、継続事業と同じように年度単位で一括して行うことができ、負担の軽減につながる。

法人事業所の場合

法人事業者は、事業主(社長)一人であっても、法律上、上記の健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険のすべてが強制適用となります。

・健康保険、厚生年金保険:役員、従業員は原則加入。
・雇用保険、労災保険:労働者(従業員)を一人でも雇用すれば加入。

個人事業主の場合

個人事業主は、従業員数が常時5人以上の場合に健康保険、厚生年金保険が強制加入となります。従業員が5人未満の場合は、原則として適用除外ですが、雇用保険と労災保険は、労働者(従業員)を一人でも雇用すれば、強制適用です。

〈神奈川県の建設業許可手引き 抜粋〉

許可申請・更新時に提出が求められる書類

許可行政庁に建設業許可を申請・更新する際、社会保険への加入状況を確認するために、主に以下の書類の写しの提出を求められます。

健康保険・厚生年金保険

・保険料の領収書(直近のもの)
・保険料納入証明書または社会保険適用証明書

雇用保険

・労働保険概算、確定保険料申告書の控え
・労働保険料の領収書(直近のもの)

これらの書類によって、事業所が適正に社会保険の適用を受けているか、また保険料の滞納なく納めているかが厳しくチェックされます。
これらの書類が提出できなかったり、適用除外の理由が認められない場合は、建設業許可の要件を満たしていないとして、申請が下りない可能性が高いので注意が必要です。

建設業許可の社会保険の不整合への対処法

建設業界では、一人親方の存在や、外注と雇用の区別が曖昧なケースが多く、社会保険の適用に関して不整合が生じやすいのが実情です。

一人親方と社会保険

一人親方とは、労働者を雇用せず、自分自身と家族だけで事業を行う個人事業主を指します。個人事業主は労働者ではないため、原則として雇用保険や労災保険の対象外です。しかし、実態は労働者であるにも関わらず一人親方として扱っている場合、偽装請負となり、これは雇用保険と労災保険の未加入と見なされ、許可要件を満たさない原因となりますので注意が必要です。

経営者自身の対応

法人・個人事業主問わず、経営者自身が社会保険に加入しているかチェックを行うことが肝要です。

・法人役員:原則として健康保険、厚生年金保険に加入必須です。国民健康保険や国民年金に加入している場合、非常勤であることなどの理由を明確に説明できなければなりません。

社会保険の適用判断は複雑であり、特に複数の営業所を持つ企業や、外注比率が高い企業では、適正な加入状況を把握することが難しいことがあります。
当事務所では、皆様の事業形態をヒアリングし、社会保険労務士などの専門家と連携しながら、建設業許可の要件を満たすよう適正な加入手続きをサポートします。お気軽にご相談ください。
グラス湘南行政書士事務所