経営事項審査(経審)は、建設業者が公共工事の入札に参加するために必須の審査です。この経審の申請書類の中でも、工事経歴書は特に注意が必要な書類の一つといえます。それは、記載内容に誤りや矛盾があると、財務諸表の修正や審査のやり直しといったリスクがあるからです。
今回は、経審の準備を進めるにあたって、工事経歴書の記載で重要なポイントを解説します。
経審の土台は決算変更届?
経営事項審査は、その前提として都道府県知事又は国土交通大臣に提出している決算変更届(事業年度終了届)の内容に基づいて申請されます。
決算変更届は、事業年度の財務状況や工事実績を報告するものですが、この書類を作成する段階で、提出する工事経歴書の中身を精査する必要があります。
工事実績の確定
経審の審査対象となる期間の売上高(完成工事高)が、決算書(財務諸表)と工事経歴書、そして注記表記載とで一貫しているかを確認します。
財務諸表との連動
工事経歴書に記載するそれぞれの工事が、最終的な決算書の数字を構成していることを意識し、決算変更届作成時に専門家(税理士や当事務所のような行政書士)によるダブルチェックを行うことが、肝要です。
工事経歴書の落とし穴!?建設工事に該当しないものの記載
工事経歴書には、文字通り建設工事として請け負った実績のみを記載する必要があります。
良く見受けられるのが、以下のような建設工事に該当しないものが誤って記載されている事例です。
・機械、資材のみの物品の販売
・測量、設計、監理などのみの業務
・警備、清掃などの役務の提供
これらの工事経歴書への記載は、売上高(完成工事高)の水増しと見なされてしまう可能性があります。万一、審査の過程でこれらの誤記載が発覚した場合、財務諸表の修正や分析のやり直しが発生し、経審の結果が出るまでに大幅な遅延が生じます。
建設工事とは?
建設業法上の建設工事(土木、建築等)の29業種に該当するかどうかを厳密に判断し、判断に迷う場合は当事務所にご相談ください。
収益計上基準の矛盾!?注記表と工事経歴書の不一致
建設業のおける収益の計上基準には、主に工事完成基準と工事進行基準の2種類があります。この基準は、決算書の一部である注記表に必ず記載されています。
経審では、この注記表で採用している基準と、工事経歴書の記載内容が一致している必要があります。
よくある矛盾の事例
注記表で工事完成基準を採用しているにもかかわらず、工事経歴書の個別の記載を見ると、未完成の工事について完成または完成予定年月日が審査基準日(決算日)以降であるにもかかわらず、その請負代金の額を完成工事高として計上している事例です。
工事完成基準を採用している場合、原則として工事が完成し、引き続き完了した時点で初めて売上を計上できます。上記のような矛盾があると、収益が正しく計上されていないと判断され、審査機関から是正を求められます。
押さえておきたい!工事完成基準と工事進行準の違い
工事経歴書の正しい記載のためには、収益計上基準の基本的な理解が不可欠です。
| 基準 | 特徴 | 経審出の注意点 |
| 工事完成基準 | 工事がすべて完成し、引渡された時点で、請負代金全額を完成工事高として計上します。 | 未完成の工事は完成工事高として計上できます。工期の完成又は完成予定年月が審査基準日より前である必要があります。 |
| 工事進行基準 | 工期の進捗度に応じて、各期に売上高を計上します。 | 継続的な大規模工事などで採用されることが多いです。進捗度に応じて、工事経歴書に計上する請負代金の額を計算する必要があります。 |
特に工事完成基準を採用している場合、工期の完成又は完成予定年月日が審査基準日(決算日)よりも後なのに、その請負代金全額を完成工事高として計上してしまうミスです。この場合、その工事は当期の実績とは認められませんので注意が必要です。
まとめ
経営事項審査は、正確な工事実績と財務状況を反映していることを求められます。工事経歴書の記載ミスや、決算書との矛盾は、修正が発生するのみならず、経審全体のスケジュール遅延や評価点の低下につながりかねません。
経審の準備は、決算変更届を作成する時点から始まっているといえます。正確な経審を通過し、公共工事への入札参加資格を得るためにも、工事経歴書の作成を当事務所へお任せください。
「グラス湘南行政書士事務所」