「注文書・注文請書でやり取りしているから、請負契約書は交わさなくてもいいよね?」

「大きな金額でもないし、口約束でも問題ないよね?」

そう思っている方もいらっしゃいますか?

しかし、それは間違いです。たとえ注文書や注文請書を交わしていても、少額な工事でも請負契約書は交わさなくてはなりません。今回は注文書、注文請書だけでは不十分な理由と請負契約書が重要な理由をお伝えします。

請負契約書が必要な3つ理由

請負契約書は単に形式的な書類ではなく、トラブルを未然に防ぎ、双方を守るための重要な役割を果たしています。

理由その1:法律で義務付けられている

建設業法19条で、請負契約の締結が義務付けられています。
(建設工事の請負契約の内容)
第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

請負契約書には、基本的に下記の16項目を記載し、記名押印しなければならないと定められています。

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事着手の時期と完成の時期
  4. 請負代金の支払い方法と支払い時期
  5. 工事の変更または中止に関する取り決め
  6. 損害賠償額の予定またはその算定方法
  7. 契約に関する紛争解決方法
  8. 天災等による損害の負担に関する定め
  9. 資材の支給または貸与に関する定め
  10. 不可抗力による損害の負担に関する定め
  11. 工事の完成検査の時期と引渡しの時期
  12. 契約不適合責任に関する定め
  13. 工事の完了に伴う違約金や損害金に関する定め
  14. 契約の解除に関する定め
  15. 契約に関する疑義が生じた場合の解決方法
  16. その他、国土交通省で定める事項

この義務を怠ると、建設業法違反となりますので注意が必要です。

理由その2:トラブルを未然に防ぐため

口約束や注文書、注文請書だけでは、後に「言った、言わない」の水かけ論になりがちです。
契約の双方を守るためにも、契約書の締結は重要です。

契約書がないことによる、トラブル事例を下記へ挙げます。
・工事内容の変更や追加が発生した際、追加料金について揉める
・工事の遅延が生じた際、責任の所在が不明瞭になる
・工事が完了したのに、代金が支払われない
・引き渡し後に不具合が見つかったが、契約不適合責任の範囲で揉める

請負契約書には、これらの事項がすべて明記されています。 万一、トラブルが発生しても、契約書という明確な証拠があるため、トラブルの未然防止に繋がります。

理由その3:建設業許可取得・維持のために不可欠

建設業許可を取得するには、請負契約書や注文書、注文請書などの工事実績を証明する書類を、提出する必要があります。さらに、許可取得後も、帳簿や営業所の備え付け書類として、請負契約書の控えを5年間保存する義務があります。これは、行政の立ち入り検査で確認される項目ですので、しっかりと保管しておく必要があります。

「注文書・注文請書」だけでは、なぜダメなの?

前述した請負契約書に記載するべき16項目が、すべて「注文書、注文請書」だけで網羅されていれば、契約書として有効に認められる可能性はあります。現に「注文書、注文請書」と約款を添えて契約する事例もあるにはあります。しかし、現実的には業法違反のリスクがあり、推奨はできません。

これは許可行政庁により取扱いが異なり、例え16項目を網羅されていたとしても、注文書と注文請書では契約書として不適切と判断され、実績として認められないリスクがあります。
また、取引上で揉めた場合、注文書、注文請書でやり取りされただけでは、契約内容の全容を証明するのが難しい場合があります。

請負契約書の締結は分かったけど、印紙代を節約したい場合は?

請負契約書や注文請書、領収書などの文書を作成した場合は、印紙を契約書に貼付しなければなりません。これは印紙税法に基づいて課税される税金です。
よく記名押印した請負契約書を1通作成し、相手方にはその写しを交付する方法で、契約が行われるケースがあります。しかし、建設業法上、請負契約書を1通だけ作成することは認められていません。これは記名押印した請負契約書を、相互に交付しなければならないと、建設業法第19条(前述に記載)に定められています。

印紙代の節約方法

若干の注意点はありますが、印紙代の節約方法がない訳ではありません。

契約金額を分割する

契約金額を分割することにより、契約書を2通に分割して契約締結します。1通分の印紙代よりも2通で印紙代が安くなる場合があります。ただし、不自然な分割は税務署から否認されるリスクがありますので注意が必要です。あくまで合理的な分割理由があっての方法といえます。

契約書を電子化する

国土交通省で定まられた、一定の基準をクリアした電子契約は、建設業法に適合するとされています。電子契約にすることにより、印紙代はかからず、記名、押印も不要です。
ただし、電子契約システムや電子署名サービスを導入する必要があり、相手方も電子契約に同意する必要があります。また、データの改ざん防止対策など、セキュリティを確保することも重要となります。

印紙代を節約するための危険な契約について

これはおすすめしない契約として挙げています。それは、契約内容を請負契約ではなく「業務委託契約」として契約することです。「業務委託契約として締結しているのだから、印紙代は不要だろう・・」と印紙代節約方法として検討してしまいがちです。しかし、実態が請負契約であるにもかかわらず、形式的に業務委託契約とすることは非常に危険です。

請負契約と業務委託契約では、法律上の責任の範囲が異なります。結局のところ、業務委託契約であっても、内容が請負契約に該当する場合は、印紙代が必要になるのです。安易に変更すると、後々のトラブルにつながる可能性があります。税務調査で実態が請負だと判断された場合、追徴課税の対象となるリスクがありますので、業務委託契約での締結はやめましょう。

当事務所では建設業許可申請を承ります。お気軽にご相談ください。

グラス湘南行政書士事務所