建設業許可の取得は、事業を拡大することに繋がり、信頼性を高める大きな一歩といえます。しかし、許可取得前に契約書を取り交わす際には、法律上の要件や将来的なリスクを回避するために、最新の注意を払う必要があります。
今回は、建設業許可申請中に工事を受注してしまった場合、特に押さえておくべき法的、実務的なポイントを解説します。
建設業許可の要・不要を再確認!
最も重要なのは、その工事がそもそも建設業許可を必要とする規模のなのかを改めて、確認する必要があります。
許可が不要な「軽微な工事」の範囲
建設業法では、以下のいずれかの基準を満たす工事を「軽微な工事」と定め、許可なく請け負うことができます。
・建築一式工事:1件の請負代金の額が、1,500万円未満(税込)のもの。または、延べ面積は150㎡未満の木造住宅工事
・建築一式工事以外の専門工事:1件の請負代金の額が500万円未満(税込)のもの
今回受注された工事が、この「軽微な工事」の範囲内であれば、契約書には特段「許可申請中である」旨を記載する必要がありません。しかし、許可申請中である以上、許可が出る可能性があることを先方に伝えることで、より先方も安心することができます。
許可が必要な工事を受注した場合の原則
万一、受注された工事が、上記の「軽微な工事」の基準を超える場合、原則として建設業許可がなければ、その工事を請け負う契約を締結し、施工を開始することはできません。これは、建設業法第3条で明確に定められています。
「申請中だから、もうすぐ許可が出る」という見込みだけで契約するのは、建設業法違反となるリスクがありますので注意が必要です。
(建設業の許可)
第3条 建設業を営もうとする者は、次に掲げる区分により、この章で定めるところにより、二以上の都道府県の区域内に営業所(本店又は支店若しくは政令で定めるこれに準ずるものをいう。以下同じ。)を設けて営業をしようとする場合にあつては国土交通大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所を設けて営業をしようとする場合にあつては当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。ただし、政令で定める軽微な建設工事のみを請け負うことを営業とする者は、この限りでない。
契約書の「停止条件」と「解除条件」の活用
許可が必要な工事を受注してしまったが、先方もその工事をあなたに任せたいと強く望んでいる場合、契約書に「停止条件」または「解除条件」を設けることが、法的なリスクを最小限に抑える対応策となります。
契約書に必ず記載すべき重要事項
停止条件や解除条件を設けるか否かにかかわらず、許可申請中に契約書を作成する際には、以下の点を明確に盛り込む必要があります。
①許可申請中である旨の明記
発注者に対し、現状が「建設業許可申請中」であることを正確に伝えている証拠として、契約書に以下の事実を明記します。
・事実の明記:「発注者は、本契約締結日現在、○○建設業許可の申請手続き中である」
・許可取得予定日の明記:「許可取得は〇〇年〇月〇日頃を予定している」
②契約締結の背景・特記の明記
発注者がなぜ許可申請中の業者と契約するのか、その背景とリスクを理解していることを示します。
「発注者は、申請中の業者の技術力及び実績を評価し、許可を取得することを前提として本契約を締結するものである」といった文言を盛り込むことが肝要です。
③許可が下りなかった場合の取り決め
停止条件を採用しない場合や、解除条件を設ける場合は、特にこの点が重要になります。
・契約解除の権利:発注者または受注者のどちらに解除権があるのか。
・損害賠償の有無:「許可が下りなかったことによる契約不履行について、相互に損害賠償を履行しない」旨の特約を設けることが、将来的なトラブル防止に有効といえます。
・費用負担:契約解除までに発生した設計料、調査費用、資材発注費用などの清算方法は取り決めておく。
④建設業法上の法定事項の遵守
「軽微な工事」であっても、建設業法第19条で定められている以下の法定事項は、必ず契約書に盛り込まなければなりません。
(一部抜粋)
・工事内容
・請負代金の額
・工事着手の時期及び完成の時期
・契約不適合責任に関する定め
・その他、設計変更や天災などによる損害負担に関する定め
(建設工事の請負契約の内容)
第19条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 工事内容
二 請負代金の額
三 工事着手の時期及び工事完成の時期
四 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
六 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
七 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
八 価格等(物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
九 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
十 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
十一 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
十三 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
十四 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
十五 契約に関する紛争の解決方法
十六 その他国土交通省令で定める事項
注意点
絶対に「仮押さえ」という表現を使わない
契約書には「許可取得後に正式契約するから、今は仮押さえ」といった曖昧な表現を使用しない様に注意しましょう。これは、実質的に違法な請負契約と見なされるリスクがあり後々、契約の存在を巡り、法的な争いの原因となる恐れがあります。
着工の時期を慎重に設定する
許可取得までは絶対に工事を始めてはいけません。契約書に記載する工事着工時期は、「建設業許可取得後〇日以内」と、許可取得を前提とした具体的な記載を心掛けてください。
入金についても注意が必要
許可取得前に、工事代金全額、あるいは著しく高額な前金(着手金)を受け取ることも、実質的な許可が必要な工事の請負と見なされかねません。もし着手金が必要な場合は、「設計・測量費用」など、工事本体ではない業務の委託費用として受け取るなど、名目を明確に分ける配慮が必要です。
まとめ
建設業許可申請中の工事受注は、将来の事業拡大となる大きなチャンスといえます。そのチャンスを確かなものにするためには、法律を遵守し、リスクを回避した盤石な契約書の作成が不可欠です。
特に許可が必要な工事については、「契約は許可が下りてから」を原則とし、発注者との信頼関係を維持しつつ、安全に進めるための停止条件付き契約をご検討いただくことが肝要です。
当事務所では、皆様の現状に適切な契約書の作成支援、建設業許可取得に向けたサポートを行っています。お気軽にご相談ください。
「グラス湘南行政書士事務所」