建設業を営む個人事業主の方で、事業拡大や公共工事の受注を目指して建設業許可の取得を検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
許可申請の準備を進めるなかで、必須書類ともいえる貸借対照表(B/S)の作成で壁に当たるケースが見受けられます。特に普段の記帳を現金主義で行っている方は注意するべき点があります。
今回は、貸借対照表が未作成の場合の対処法について解説します。

(1) 建設業許可申請に貸借対照表が必要な理由

建設業許可申請には、過去の決算期(新規申請の場合は、直近の決算期)の財務状況を示す書類の提出が義務付けられています。個人事業主の場合、以下の2種類の財務諸表が必要です。
1.貸借対照表(B/S) 事業の資産、負債、資本の状況を示すもの。
2.損益計算書(P/L) 事業の収益と費用の状況を示すもの。
これらの書類は、申請者が建設工事を適切に遂行できる財産的基礎または金銭的信用を有しているかを許可行政庁が審査するために不可欠なものです。

(2) 白色申告や現金主義の青色申告の方は注意が必要?

税務申告の観点では、以下のケースで貸借対照表の作成や提出義務がない場合があります。
白色申告:税務申告上は収支内訳書のみで良く、貸借対照表の作成・提出義務はありません。
現金主義の青色申告:一定の小規模事業者に認められる記帳方法で、貸借対照表の提出が必須ではありません。青色申告特別控除額も10万円が上限となります。
しかし、建設業許可の申請においては、税務申告の有無や記帳方法にかかわらず、建設業法様式に基づいた貸借対照表の提出が必要なのです。
このギャップが、個人事業主の方が直面する最大のハードルといえます。

(3) 現金主義の大きな落とし穴とは?

前述した青色申告で現金主義を選択されている個人事業主は、特に以下の点に注意が必要です。

1.建設業会計は発生主義が前提であること

建設業許可で求められる財務諸表は、原則として発生主義に基づき作成しなければなりません。

用語説明

現金主義
現金の入出金があった時点で収益や費用を計上する方法。

発生主義
取引の事実が発生した時点で収益や費用を計上する方法。

発生主義は工事が完成し、引渡した時点で完成工事高(売上)を計上します。これは実際の代金回収の有無は問いません。一方、現金主義で記帳している場合、未入金の売上(売掛金)や未払いの外注費、材料費(買掛金)といった、建設業の信用取引の実態を示す重要な科目が帳簿に現れません。なぜなら、現金主義ではお金の動きがないと、帳簿に計上されないからです。

2.貸借対照表の作成に手作業での調整が必要

現金主義の記帳をそのまま利用して、建設業許可用の貸借対照表を作成することはできません。許可申請に必要な貸借対照表を作成するためには、以下のような発生主義への調整作業が必要となります。
完成工事未収入金(売掛金):決算日時点で既に工事は完了していますが、入金が翌期になる代金を資産として計上します。
完成工事未払金(買掛金):決算日時点で既に材料や外注費の支払い義務が発生していますが、支払いが翌期になる金額を負債として計上します。
未完成工事支出金:期末時点でまだ完了していない工事に投入した原価を、資産(棚卸資産)として計上します。
これらの項目を適切に算定し、過去の帳簿に遡って組み込むことで、建設業許可申請に提出できる発生主義に基づいた貸借対照表が完成します。

(4) 貸借対照表が未作成あるいは現金主義の場合の具体的な対処方法

貸借対照表が未作成あるいは現金主義で作成している場合でも、許可取得をすることは可能です。

1.必要な書類を収集する

まずは、発生主義に基づいた数値を算定するために、以下の資料を漏れなく収集する必要があります。

科目必要資料認事項
現金・預金事業用通帳(1年分)、現金出納帳決算時点の残高
未収入金・未払金請求書、支払通知書控え、契約書決算日を跨いだ未決済取引(掛取引)全て
未完成工事支出金工事台帳、仕入、外注費の証明書類期末時点で未完成の工事にかかった費用を特定する
事業主貸・事業主借事業用とプライベートのお金のやりとりの記録事業と個人の資金の移動を明確化

特に、請求書の日付と入金日・支払日を照らし合わせる作業が、発生主義への調整の鍵となります。

2.建設業法様式への組み換えと作成

収集した資料を基に、手作業で発生主義の原則に沿って数値を調整・確定させます。その後、その数値を建設業法で定められた勘定科目に振り分け、様式第18号(貸借対照表)を作成します。
一般会計(税務申告)の勘定科目と、建設業法様式の勘定科目は異なります。例えば税務申告の売掛金は、建設業法様式は完成工事未収入金となっています。
この組み換えの作業は、建設業会計の専門知識がなければ、正確に行うことができません。

まとめ

個人事業主で貸借対照表が未作成であったり、または現金主義で記帳している場合でも、建設業許可を取得できる可能性があるのです。必要なのは、日々の取引記録とそれを、建設業法様式に正確に落とし込むための専門知識といえます。
当事務所では、新規建設業許可申請はもちろん、貸借対照表作成(※)のサポートから、申請手続きまでトータルで支援いたします。まずは一度ご相談ください。

※ここでいう貸借対照表のサポートとは税務会計上のものではなく、建設業法様式上のものをいいます。税務会計上の個別具体的なご相談につきましては、提携の税理士へ繋ぎ、トータル的なサポートを行わせて頂きます。

また、本記事において、税務上の決算書について触れていますが、あくまで建設業法様式上との比較で言及したものであり、一般的な内容の説明に留まっています。個別具体的な内容を保証するものではありませんので、予めご了承下さい。

グラス湘南行政書士事務所