建設業許可を取得する際、一つの大きな要件として「営業所技術者(専技)」の存在が不可欠です。
この営業所技術者は、営業所に勤務し、その業務に専ら従事する者であり、適切な実務経験や技能を持っている必要があります。
では、この実務経験を証明するにあたって、過去の勤務先が建設業許可を受けていない業者だった場合、その経験は認められるのでしょうか?
これは建設業許可取得を検討されている方から聞かれる非常に多い質問と言えます。
結論からいうと、建設業許可の要件としての実務経験は、無許可業者での経験も認められます。
ただし、これにはいくつかの重要な条件と注意点がありますので、この条件と注意点について解説します。
営業所技術者の実務経験とは?
まずは、建設業許可における営業所技術者になるための「実務経験」の定義について確認しましょう。特定の資格を有しないことを前提にすすめると、10年間の実務経験が求められます。ただし、特定の指定学科を卒業すると実務経験が3年または5年に短縮されます。
この「実務経験」とは、建設工事の施工に関する技術上のすべての職務経験を指します。具体的には以下のようなものが該当します。
・施工管理(現場監督)
・設計、積算
・技術的な指導監督
例えば事務作業や営業活動、労務管理など、現場技術に関連しない職務は、実務経験として認められません。重要なのは、実際にその業種の建設工事の技術的な側面に携わっていたか、どうかで判断します。
建設業許可制度の趣旨
建設業許可は、発注者を保護し、建設工事の適正な施工を確保することを目的にしています。許可を取得していない業者であっても、実際に行われた工事が建設業法に定められた業種に該当し、その施工に携わった経験が、将来的に適正な施工を行うための技術的な裏付けとなることは変わりません。
重要なのは、「どこの会社で働いていたか」ではなく、「実際にどの様な工事で、どの様な技術的な業務に携わったか」という経験の中身が重要なのです。
建設業法上の「建設工事」の定義
建設業法上の「建設工事」については第2条に定義が定められています。
(定義)
第2条 この法律において「建設工事」とは、土木建築に関する工事で別表第一の上欄に掲げるものをいう。2 この法律において「建設業」とは、元請、下請その他いかなる名義をもつてするかを問わず、建設工事の完成を請け負う営業をいう。
3 この法律において「建設業者」とは、第3条第1項の許可を受けて建設業を営む者をいう。
4 この法律において「下請契約」とは、建設工事を他の者から請け負つた建設業を営む者と他の建設業を営む者との間で当該建設工事の全部又は一部について締結される請負契約をいう。
5 この法律において「発注者」とは、建設工事(他の者から請け負つたものを除く。)の注文者をいい、「元請負人」とは、下請契約における注文者で建設業者であるものをいい、「下請負人」とは、下請契約における請負人をいう。
建設業法第2条第1項には「建設工事」の定義がありますが、この定義には「許可を受けた者が行う工事に限る」といった文言はありません。
つまり、許可の有無にかかわらず、法に定められた29業種に該当する工事であれば、それは「建設工事」に該当します。無許可業者として行った工事であっても、それが特定の建設工事に該当し、技術者がその施工に携わっていれば、その期間は実務経験としてカウントされることになります。
無許可業者での経験を証明する際の注意点
無許可業者での経験が認められることは、前述したとおりですが、これを証明する際には、極めて厳格な証明資料が求められます。許可業者での経験よりも、審査が慎重になる傾向があります。
証明書類の厳格
実務経験の証明で最も重要になるのは、「いつ、どの業種で、どのような業務に携わったか」を客観的に証明することです。
これは経験期間の証明と工事内容の証明に大別されますが、特に工事内容の証明が最も重要かつ難関といえます。
無許可業者での経験の場合、以下の書類を可能な限り揃える必要があります。
経験期間の証明(在籍証明)
・当時の会社の登記簿謄本(または閉鎖事項証明書):存在していたことの証明
・健康保険証の写し、厚生年金加入記録(年金事務所発行):在籍期間の客観的な証明
・雇用契約書、給与明細:在籍していたことの証明
工事内容の証明
・契約書または注文書、請書の写し:発注者と会社との間で、工事の請負契約があったことを示す
・請求書と領収書の写し:実際に工事が完了し、代金の受領があったことを示す
工事写真、設計図面、見積書など:工事の種類や内容、規模を示す
特に請負契約書等は、この工事が建設業法上、どの業種に該当するかを、判断する最も重要な証拠となります。
立証責任は申請者にある
実務経験があったことの立証責任は、すべて申請者側にあることです。
無許可業者のなかには、契約書などの書類整備が不十分だったり、既に会社が解散・廃業していたりする場合は、必要書類が揃えられないことがあります。書類が揃わなければ「実務経験はあったかもしれないが、証明できない」として、その期間は実務経験として認められませんので注意が必要です。
個人事業主としての経験の注意点
個人事業主としての経験は、「建設業を営んでいたこと」を証明するため、税務署の確定申告書の提出が必須となります。これは工事売上や経費の確認のためです。
無許可業者での実務経験を証明する手続きは、許可業者での経験証明に比べて、非常に複雑で難易度が高いといえます。
当事務所では建設業許可申請はもちろん、このような実務経験の証明をサポートします。書類が不十分な場合でも、ご依頼者様と協力して当時の状況を整理し、最大限に経験を認めてもらえるよう資料収集・作成に努めます。お気軽にご相談下さい。