不動産取引において、最も重要かつ緊張感のある場面といえば、重要事項説明(重説)ではないでしょうか。
宅建業法に基づき、契約締結の判断を左右する情報を購入者に提示するこの説明は、トラブルを未然に防ぐための重要な行事といえます。
しかし、実際の現場では、お客様が物件のプラス要素ばかりに目を奪われ、リスクを軽視してしまうのではないか、という懸念や重要事項説明書にプラスの情報ももっと盛り込むべきではないか、といった議論がしばしあります。
今回は、200件以上の重要事項説明を行ってきた行政書士の視点から、重要事項説明書が本来果たすべき役割と、その真相について番外編として解説します。
重説はマイナス要素を伝えるためのもの
重要事項説明書の本来の趣旨は、その物件の魅力を伝えるようなカタログではありません。売買対象物件が抱える法令上の制限やリスク要因といった、いわばマイナス要素を包み隠さず購入者に提示することにあります。
宅建業法における重説の目的は、購入者が不足の損害を被ることを防ぎ、取引の安全を確保することにあります。物件の良い点は、パンフレットや営業時に提示されているはずです。しかし、重説で説明する建築制限や周辺環境の制約は、購入者にとって今後の根幹を揺るがす重大な損失になりかねません。
どんな物件にも必ずマイナス要素があります。それを説明するのが重要事項説明の役割なのです。
建築可能という誤解を避けるために
注意するべき点はたくさんありますが例えば、建築制限や将来の増改築に関する説明が挙げられます。
重説では、都市計画法上の制限や建築基準法に基づく接道義務など、厳しい制限事項を羅列しています。ここで最も重要なのは、具体的な建築計画が定まっていない現状において、現時点でこの土地なら将来的に自由に増改築ができると判断するものではないという点です。
お客様のなかには、建築条件が整っていれば、いつでも好きなようにリフォームや増築ができると思われる方もいらっしゃいます。しかし、将来的な建築計画や具体的な設計プランが確定していない段階で、増改築の可能性を安易に保証することはできません。
そのため重要事項説明書には、「現時点では具体的な建築計画が定まっていないため、将来的には増改築や建替えができない場合があります。」といった趣旨の記載を行い、購入者に慎重な判断を促すことが不可欠です。マイナス要素としてこれらを提示することこそが、重説の本当の役割なのです。
なぜ重説なマイナス提示に徹するのか
不動産という商品が極めて個性が強く、一度購入すれば取り返しのつかない高額商品であるからです。
不動産は一度権利が移転すれば後から、思っていた土地ではなかったなどという理由でキャンセルすることはできません。
不動産会社勤務時代は、多くのトラブル事例を見てきましたが、その大半は良い話だけを信じて、リスクを十分に理解していなかったことに起因しています。
また、宅建業者が負う説明義務の範囲は、法令で定められた重要事項を網羅することです。これを超えるプラス要素の記載は、時に甘い見通しをお客様に抱かせ、説明責任の不備を突かれるリスクにもなり得ます。プロとして信頼を得るには、感情論を排し、リスクとして考えられる事柄を提示することが、結果としてお客様の顧客満足度に繋がると信じています。
まとめ
重要事項説明書は、現実を直視するための書類です。
契約の場において、マイナス情報を丁寧に、かつ毅然と説明することこそが、将来のトラブルを未然に防ぎ、不動産取引を確かなものにする方法といえます。お客様がそのリスクを聞いて、購入を控えることになったら、営業は大変辛いこととは思います。しかし、それが結果的に会社にとっての顧客満足度や信用を蓄積していくものと信じています。
今後も、行政書士として実務に役立つ法改正情報や、現場で活かせる視点を発信してまいります。不動産取引に関するご相談があれば、いつでもお気軽に当事務所までお問い合わせください。
「グラス湘南行政書士事務所」