建設業許可取得の要件として最も大きな壁といえるのは、専任技術者の10年以上の実務経験を証明することではないでしょうか。
専任技術者の証明方法としては、指定学科の卒業により3年以上または5年以上の経験を証明すれば良い場合と、その許可業種に応じた国家資格を取得していれば、実務経験の証明が不要な場合があります。
今回の記事では一番ハードルの高い10年以上の実務経験の証明と、そのカウント方法について解説します。
実務経験を証明するための「実務経験証明書」とは?
国家資格を持っていない方が専任技術者の要件を満たす場合、実務経験の証明が必要なのは前述したとおりです。その際に使用されるのが「実務経験証明書」になります。
「実務経験証明書」の記載内容は?
実務経験証明書に記載する主な内容は以下の通りです。
1.申請者の氏名、生年月日
2.証明者の氏名(会社名)、住所、電話番号、署名捺印
3.実務経験を証明する期間
4.証明する工事詳細
実務経験を証明する場合、現在までずっと個人事業として、または同じ会社で勤めていた場合は、書類を集めやすいのですが、過去10年以内で転職をしていた場合などは、過去に在籍していた会社から取得しなければならないケースがあります。
例えば10年以上の実務経験を証明する場合、過去3年間はA社、その前の7年間はB社に勤めていたのであれば、A社、B社の両方に実務経験証明書を作成してもらう必要があります。
実務経験証明書作成の注意点
1.記載内容の具体性が求められる
工事内容を漠然と書くのではなく、どの工事のどの部分に、どのような立場で関わったのかを具体的に記載することが重要です。
2.関連資料の添付が求められる
実務経験証明書の裏付け書類として、工事に関する契約書、発注書、入金通帳の写しなどが求められます。また場合によっては図面、写真などの関連資料の添付を求められることがあります。これらは証明書の記載内容と整合性が取れていることが重要です。
3.前職の関係者の協力が必要な場合がある
実務経験証明書は、原則として過去に勤務していた会社や元請業者に作成してもらいます。しかし、退職した会社との関係が悪化している場合や会社自体が倒産している場合などは、取得が困難となります。その場合は、自分で作成し、過去の勤務先や元請業者に署名・捺印を依頼することも一つの方法です。
実務経験証明書を作成しても注文書や請求書、契約書などを提出しなければならないの?
建設業許可申請において、工事の注文書や請求書、契約書といった書類は、実務経験証明書に記載された内容を裏付けるための補足資料として提出するものです。
神奈川県ではこれらの書類と合わせて「実務経験証明書」の提出が必須となります。
過去の契約書、請求書が手元にない場合
とはいえ「10年前の請負契約書なんて今更、残してないよ・・」といった方もいらっしゃるかと思います。10年前の契約書や請求書が手元になくても、許可申請を諦めるのはまだ早いです。以下に記載する方法で実務経験を証明できる可能性があります。
1.過去の銀行口座の取引明細を発行してもらう
入金口座で利用している金融機関に10年前からの取引明細を発行して貰えるか確認しましょう。この取引明細で工事の入金履歴を証明できる可能性があります。
2.勤務証明書類を活用
会社に在籍していた事実を証明する書類で代替できる場合があります。
・社会保険の被保険者記録照会回答票
・年金事務所が発行する被保険者記録
・雇用保険被保険者証
・源泉徴収票
これらの書類は過去の勤務期間を公的に証明するものであり、非常に有益な書類です。
しかし、どのような工事に従事していたかまでは証明できないため、他の客観的書類と併せて提出することが望ましいです。他の客観的書類とは、業務を発注してくれていた元請業者や過去の勤務先に、陳述書を作成してもらう方法です。
陳述書は、契約書や注文書が手元にない場合に、第三者による証明として認められる可能性があります。ただし、各行政庁が個別に判断するため、申請する行政庁へ確認する必要があります。
実務経験のカウント方法と間隔
神奈川県では、実務経験を「1年1件」としてカウントしています。これは1年間で申請しようとしている業種に該当する工事が1件以上あれば、その1年を実務経験として認められるという考え方です。
例えば、10年分の実務経験を証明する場合は、最低でも10件の工事実績を証明する必要があります。
神奈川県「建設業許可申請の手引き」引用

ちなみに東京都は原則として「1ケ月に1件」の書類を求められ、工事の間隔が3ヶ月未満であればこの期間(3ヶ月)も実務経験の年数にカウントして良いというルールがあります。個別の状況によりますが、東京都に比べると神奈川県は証明件数が少ない傾向にあるといえます。
東京都「経営経験・実務経験期間確認表」引用

しかしこれも各行政庁により異なり、ルール変更も生じる場合がありますので、申請時の行政庁ホームページで必ず手引きを確認しましょう。
今回は専任技術者の実務経験の証明について解説しましたが、提出する書類(注文書、請求書など)の他に、入金を証明する通帳の写しなどを併せて提出することが求められます。ここで整合性が取れないと行政庁から確認を求められます。是正措置で対応できれば良いですが、虚偽の申告をしていた場合は、罰則の対象となりますので絶対に避けなければなりません。行政庁は、提出された証明書の内容を詳細に審査するため、虚偽の記載は必ず発覚すると考えて下さい。