建設業許可申請の要件の一つに、財産的基礎または金銭的信用の証明があります。この証明の肝となるのが、貸借対照表(B/S)です。適切な貸借対照表を作成することは、許可取得の第一歩といえます。
今回は、個人事業主が建設業許可申請のために準備すべき貸借対照表のポイントを解説します。
貸借対照表とは?許可申請における重要性
貸借対照表は、ある一時点における事業の財務状況、つまり事業がどのような資産を持ち、どのような負債を負い、どれだけの元手(純資産)があるかを示す書類です。
・左側(借方):資産の部(現金、売掛金、土地、建物など)
・右側(貸方):負債の部(買掛金、借入金など)と純資産の部(元入金、事業主貸、事業主借など)
常に資産=負債+純資産という等式が成り立ちます。
建設業許可との関連
一般建設業許可
自己資金(純資産)が500万円以上あること、または500万円以上の資金調達能力(残高証明書など)があること。
特定建設業許可
より厳しい要件(欠損の額、流動比率、資本金、純資産)が求められます。
個人事業主の場合、純資産の部は主に元入金、事業主貸、事業主借などの勘定科目で構成されます。これらの合計額が500万円以上あることが、一般建設業許可の大きな要件の一つとなります。
個人事業主向け貸借対照表作成の勘定科目
個人事業主の場合、法人と異なる独特の勘定科目を用いる必要があります。
資産の部(主な勘定科目)
| 区分 | 勘定科目 | 説明 |
| 流動資産 | 現金・預金 | 普通預金・定期預金などの残高。申請基準日時点で500万円以上の調達能力を証明する必要があります。 |
| 売掛金 | 既に工事が終了し、代金を受け取っていない金額。 | |
| 固定資産 | 建物・建築物 | 事業用の事務所・倉庫など。 |
| 車両運搬具・工具器具備品 | トラック、重機、PCなど。 | |
| 繰延資産 | 開業費など。 |
負債の部(主な勘定科目)
| 区分 | 勘定科目 | 説明 |
| 流動負債 | 買掛金・未払金 | 材料費や外注費のうち、まだ支払っていない金額。 |
| 固定負債 | 長期借入金 | 返済期限が1年を超える借入金。 |
純資産の部(個人事業主特有の重要科目)
| 勘定科目 | 説明 | 許可申請のポイント |
| 元入金 | 事業の初期投資や、前年までの事業で蓄積された元手。これが純資産の基礎となります。 | 期首の元入金が純資産の計算の出発点です。 |
| 事業主貸 | 事業用の資金から事業主(個人)の生活費などを引き出した額。純資産を減らす要因。 | 多すぎると純資産が減り、500万円を下回る可能性があります。 |
| 事業主借 | 事業主(個人)の財布から事業に資金を入れた額。純資産を増やす要因。 | 許可基準を満たすために増資(追加入金)として使われることがあります。 |
| 事業主借 | 事業主(個人)の財布から事業に資金を入れた額。純資産を増やす要因。 | 許可基準を満たすために増資(追加入金)として使われることがあります。 |
| 青色申告特別控除前の所得金額 | 申請基準日までの期間の利益。純資産を増やす要因。 | 当期利益に相当します。 |
許可取得のための純資産500万円対策
個人事業主が一般建設業許可の純資産500万円以上の要件を満たすために、取るべき対策を下記へ挙げます。
①事業主借による増資(追加入金)
貸借対照表の純資産額が500万円に満たない場合、最も迅速かつ一般的な対策は、個人(事業主)の資金を事業に事業主借として投入することです。
・処理方法:事業主の個人口座から事業用口座へ資金を移動させ、事業主借として処理します。
・注意点:この資金移動は、申請日以前に行われている必要があります。また、実際の移動だけではなく、事業用資金として使用できる状態である必要があります。
②資産と負債の正確な計上
・流動資産の確認:預金残高や売掛金を漏れなく計上します。特に申請基準日(決算日)の残高が重要です。
・事業主貸の圧縮:不必要な事業主貸(個人的な支出)を抑え、事業資金を貯えます。
③特定建設業許可を目指す場合
特定建設業許可の要件は要件が非常に厳しく、自己資本4,000万円以上など、個人事業主にとって、ハードルが高いといえます。特定の要件を満たせない場合は、法人化の検討や資本増資など、より根本的な対策が必要になります。
確定申告書の整合性
建設業許可申請で提出する貸借対照表は、原則として直前の確定申告で提出した青色申告決算書または収支内訳書と整合性が取れている必要があります。特に青色申告決算書の貸借対照表の数値をベースに作成されます。
申請後のチェック
許可を取得した後も、5年に一度の更新時や毎年の事業年度終了報告で、事業の財政状況をチェックされます。許可を維持するためにも、日頃から健全な経営体制を構築することが重要です。
まとめ
貸借対照表の作成や、許可要件の判断は難しく専門的な知識が必要といえます。誤りがあると申請が遅延したり、場合によっては不許可になってしまう可能性があります。
当事務所では、個人事業主様の状況をヒアリングし、様々な要件をクリアするためのアドバイスや、複雑な申請手続きの代行を行っています。お気軽にご相談ください。
「グラス湘南行政書士事務所」
※本件記事の貸借対照表は、建設業法第11条の規定に基づき、建設業許可申請のためのものであり、税務申告に用いる決算書とは、一部の勘定科目、表示方法、および経理処理が異なります。税務申告に用いる決算書についての内容ではありません。