今回は、主任技術者が突然退職してしまった場合、代替要員の配置に関する可否について、建設業法の観点から解説します。

現場の危機!主任技術者退職がもたらす影響

建設業法では、請け負った建設工事を施工する場合、全ての現場に主任技術者または監理技術者(以下を総称して主任技術者と呼びます)を配置することが義務付けられています。

(主任技術者及び監理技術者の設置等)
第26条 建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第7条第2号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。

これは、工事の品質確保と安全管理を行うための、法律上の重要な要請です。
この配置するべき主任技術者が突然退職してしまった場合、どうなるのでしょうか?

配置義務違反のリスク

主任技術者がいなくなった時点で、建設業法上の配置義務違反の状態となります。これは、行政指導の対象となるだけではなく、悪質は場合は営業停止などの行政処分に繋がる可能性があります。

工事の停滞

技術的な管理・指導監督を担う者が不在となるため、工事の進行に支障をきたし、工期遅延や施主との信頼関係に影響を及ぼします。

契約不適合責任(瑕疵)リスクの増大

適切な技術管理が行われず、結果として工事に不備が生じた場合、重大な責任を負うことになります。
主任技術者の退職は、会社の存続に関わる重大事項といえます。

主任技術者配置の絶対要件とは?

一刻も早く代替要員を確保しなければなりませんが、誰でも主任技術者になれるわけではありません。建設業法が求める主任技術者には、資格・経験の要件と雇用の要件という、2つの絶対的な壁が存在します。

資格・経験の要件(技術的な壁)

主任技術者は、一般建設業の専任技術者と同様の要件を満たす必要があります。具体的には以下のいずれかに該当しなければなりません。

国家資格:該当する建設工事の種類に応じた所定の国家資格を有する者
実務経験:指定学科卒業後、大学で3年以上、高校で5年以上、またはその他の学歴で10年以上の実務経験を有する者

これらの要件を満たさない者を主任技術者として配置することは、技術的な管理能力が担保させていないため、建設業法上認められていません。

雇用関係の要件(雇用形態の壁)

主任技術者として現場に配置されるものは、原則として、建設業者と直接的かつ恒常的な雇用関係にあることが義務付けられています。
これは、建設工事の適正な施工を確保するため、主任技術者が会社の指揮命令系統に組み込まれ、責任をもって業務に遂行できる状況を担保するためです。
ここでいう、直接的かつ恒常的な雇用関係とは、一般的に正社員としての雇用形態を指します。

アルバイトを主任技術者として配置することは可能?

結論からいうと不可能です。
多くの自治体や審査機関では直接的かつ恒常的な雇用関係の証明として、健康保険証(社会保険への加入)や住民税の特別徴収税額通知書などを求めます。

アルバイト・パートタイマー

短期間勤務や短期雇用の場合が多く、恒常的な雇用関係や常勤性が認められにくい立場です。

派遣社員、出向社員(特定の場合を除く)

会社との間に第三者が介在するため、直接的な雇用関係を満たしません。
したがって、アルバイトの方が、上記資格、経験の要件を満たしていたとしても、雇用形態の要件を満たさないため、主任技術者として配置することは認められません。
万一、アルバイトの方を配置すると、違法な名義貸しと見なされ、重い行政処分を受けるリスクがありますので注意が必要です。

主任技術者退職時の緊急対応策

主任技術者が突然退職してしまった場合、会社はどの様に対応するべきでしょうか?

社内の人材を緊急配置

社内にいる他の有資格者や要件を満たす実務経験者を配置することです。

営業所の専任技術者

工事が専任を要しない規模(請負金額4,500万円未満、建築一式工事は9,000万円未満など)であれば、営業所の主任技術者を現場の主任技術者と兼任させることが可能です。ただし、兼任の可否には厳格な基準がありますので注意が必要です。

他の現場の主任技術者

こちらも専任を要しない現場の主任技術者であれば、一定の条件下(巡回可能な範囲、兼任可能な件数など)で兼任させることを検討します。

新たな正社員の緊急採用

要件を満たす技術者を、正社員として採用することが必須です。採用が完了するまでの間は、工事の進行に大きな支障をきたさないよう、発注者と協議のうえ、一時的に工事を中断するか、主任技術者不在の期間を極力短くする必要があります。

配置が不要となる工事の検討(緩和措置)

令和2年の建設業法改正により、以下の要件を全て満たす場合、下請工事の主任技術者の配置が不要となる特定専門工事の緩和措置が導入されました。

特定専門工事:型枠工事または鉄筋工事であること
下請金額:下請契約の請負代金の額、合計が4,000万円未満であること

工事がこの緩和措置の対象となるかどうかを、確認することも一つの方法です。ただし、元請工事ではこの緩和措置が適用されず、必ず主任技術者を配置しなければなりませんので注意が必要です。
アルバイトで資格を持っていても、技術者の恒常的かつ直接的な雇用関係を必須としています。主任技術者の配置に関する違法状態は、行政処分の対象となりますので、ご注意ください。
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グラス湘南行政書士事務所