業務の中で、特に深刻な問題として挙げられるのが、「著しく短い工期」を強いる契約に関するトラブルです。
これは、元請・下請の関係を問わず、建設現場の安全と品質や現場で、作業する方々に直結する問題であり、絶対に避けるべき問題といえます。
今回は、この「著しく短い工期」が法的にどうのような定義がされ、実際どのような契約を結んでしまった場合に、問題となるのかについて、対策と解決策を解説します。

(1)そもそも「著しく短い工期」とは何?

「著しく短い工期」という言葉は、非常に曖昧な表現ですよね?

しかしこれは、建設業法に明確に、定義されている概念です。
建設業法第19条の4に、「不当に短い工期を定めることの禁止」が定められています。

(不当な使用資材等の購入強制の禁止)

第19条の4 注文者は、請負契約の締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事に使用する資材若しくは機械器具又はこれらの購入先を指定し、これらを請負人に購入させて、その利益を害してはならない。

この条文は、発注者(元請も含む)に対し、客観的にみて、その工事の「適正な施工」のために必要不可欠な期間を、下回るような工期を、請負人(下請も含む)に強いることを禁止しています。

(2)「著しく短い工期」の具体的な判断基準は?

「著しく短い工期」とは具体的に、どの程度の短さなのでしょうか?
建設業法には、具体的な日数等は記載がありませんが、国土交通省のガイドラインなどに基づき、以下の点を総合的に考慮して判断されます。

  • 工事の内容と規模:どの様な種類の工事で、どれだけの作業量があるか。
  • 技術的な難易度:特殊な工法や高度な技術を要するか。
  • 資材調達・準備期間:必要な資材や機械の手配に要する期間。
  • 天候・季節的要因:雨天や積雪など、作業の進行を妨げる可能性のある要因。
  • 適切な休日・休憩:労働基準法に基づいた、適切な休日の確保や作業員の休憩に必要な基幹。


「安全と品質を確保し、かつ建設業に従事する者が法定の労働時間を守って施工するために、客観的にみて、最低限必要な期間」よりも短い工期が設定されていれば、「著しく短い工期」と判断される可能性が高くなります。

(3)「著しく短い工期」で契約した場合の重大なリスクとは?

この「著しく短い工期」の契約に、応じてしまった場合のリスクについてですが、工期が短いということは、作業者が過密スケジュールで働かざるを得ないことを意味します。これにより、以下の問題が発生します。

施工品質の低下

焦って作業をすることで、チェックや確認が疎かになり、結果的に手抜き工事や品質低下の原因となります。

重大な事故の発生

疲労の蓄積により、作業者の集中力が低下し、ケガなどの労働災害リスクが高まります。

手直し工事の発生

品質が低いと、完成後に手直しが発生し、かえって時間とコストを浪費する結果となります。

(4)法律違反(建設業法・労働基準法)のリスク

「著しく短い工期」を履行しようとすれば、結果的に法律違反に繋がってしまう事態に陥る可能性があります。

建設業法違反(元請の場合)

元請けとして、不当に短い工期を下請けに強いた場合、建設業法第19条の4違反として、国土交通大臣や都道府県知事から指導・勧告・命令の行政処分を受ける可能性があります。

労働基準法違反

短い工期を間に合わせるため、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えた長時間労働や、適切な休日(週1日または4週で4日以上)を与えられない休日労働を強いることにより、労働基準法違反として、罰則の対象となる可能性があります。

(5)適正な請負代金の確保が困難に?

「著しく短い工期」を行うことによって、残業代や休日出勤手当といった人件費が割増になり、予定外のコストが発生します。適正な利益を確保することが困難となり、赤字工事として会社の資金繰りを圧迫する結果に繋がります。

(6)不当な工期を提示された場合の対応策は?

万一、発注者から「著しく短い工期」を提示された場合、どのように対応すべきでしょうか?
契約を断る前に、まずは発注者と対話の場を持つことが重要です。
感情論ではなく、安全・品質・法定義務の観点から、その工期で完成されることは不可能である、あるいは重大なリスクを伴うことを明確に伝えます。
また、自社の経験や専門的な知識に基づき、各作業工程に要する日数を具体的に積算し、この工事に客観的に必要な工期を資料として提示するなどの対応を行います。
また、不当な工期の押しつけが継続する場合は、建設業法の規定に基づき、行政指導を求めることができます。

(7)契約書への「特記事項」の記載を求める

「著しく短い工期」の請負契約締結は避けるべきですが、短工期で受注せざるを得ない場合は、リスクを少しでも軽減するために、契約書(特記事項として)に記載を求めるようにしましょう。

具体的には、天候不良や資材調達の遅延、設計変更など、予期せぬ事態が発生した場合に、自動的に工期が延長される旨や、その際の追加費用について、具体的に定めた特記事項を盛り込むよう求めます。

まとめ

「著しく短い工期」での契約は、一見すると仕事を得るための手段に見えるかもしれませんが、その実態は品質、安全、法令順守のすべてを、逸脱するリスクがあるといえます。
当事務所では建設業許可申請はもちろん、工期に関する契約内容の確認、適正な契約書の作成をサポートします。お気軽にご相談ください。

グラス湘南行政書士事務所