建設業界では、工事の品質管理や安全管理を担う、主任技術者の確保が大きな課題となっています。特に資格や実務経験の要件が厳しいため、「必要な時に技術者がいない」という状況に直面する事業主の方も少なくありません。
しかし、高い技能と経験を持つ「登録基幹技能者」であれば、特定の要件を満たすことで、この主任技術者として認められる方法があるのです。
今回は登録基幹技能者が主任技術者になるための具体的な要件、メリット、そして対応する工事の種類について、解説します。

(1)登録基幹技能者とは?

まず、登録基幹技能者とはどのような存在なのでしょうか?
登録基幹技能者とは、長い経験を持つベテラン技能者というだけではなく、熟練した作業能力と豊富な知識を持ち、さらには現場の管理・運営能力(マネジメント能力)に優れていることが、国によって認められている技能者のことです。
具体的には国土交通大臣が認める講習(登録基幹技能者講習)を修了し、資格認定を受けた者を指します。
登録基幹技能者は現場の品質、安全、工程、原価管理といったマネジメントを、専門工事業者の団体が行う講習を通じて体系的に学び、専門工事業の責任者、つまりは「職長」として位置づけられています。

(2)なぜ主任技術者になれるの?

主任技術者として認められるためには、原則として「1級・2級の国家資格」または「一定期間以上の実務経験」が必要です。
しかし、登録基幹技能者は、その高い能力とマネジメント経験が認められ、建設業法第26条第1項に定める主任技術者の要件を満たす者として扱われます。

(主任技術者及び監理技術者の設置等)

第26条 建設業者は、その請け負つた建設工事を施工するときは、当該建設工事に関し第7条第2号イ、ロ又はハに該当する者で当該工事現場における建設工事の施工の技術上の管理をつかさどるもの(以下「主任技術者」という。)を置かなければならない。

(許可の基準)

第7条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。 その営業所ごとに、次のいずれかに該当する者で専任のものを置く者であること。

 許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関し学校教育法(昭和22年法律第26号)による高等学校(旧中等学校令(昭和18年勅令第36号)による実業学校を含む。第26条の7第1項第2号ロにおいて同じ。)若しくは中等教育学校を卒業した後5年以上又は同法による大学(旧大学令(大正7年勅令第388号)による大学を含む。同号ロにおいて同じ。)若しくは高等専門学校(旧専門学校令(明治36年勅令第61号)による専門学校を含む。同号ロにおいて同じ。)を卒業した(同法による専門職大学の前期課程を修了した場合を含む。)後3年以上実務の経験を有する者で在学中に国土交通省令で定める学科を修めたもの

 許可を受けようとする建設業に係る建設工事に関し10年以上実務の経験を有する者

 国土交通大臣がイ又はロに掲げる者と同等以上の知識及び技術又は技能を有するものと認定した者

登録基幹技能者講習の修了証には、その講習が対応する建設業の種類について「実務経験を有する建設業の種類の主任技術者の要件を満たす」と記載されており、これにより主任技術者としての資格要件を満たしていることが公的に証明されるのです。
これは、特に一般建設業の専任の主任技術者の要件を満たす上で、強力なアドバンテージといえます。

(3)主任技術者として認められるための具体的要件

登録基幹技能者講習を修了し、主任技術者として認められるためには、以下の3つの要件すべてを満たす必要があります。

要件1 登録基幹技能者講習の修了

国土交通大臣に登録された機関が実施する登録基幹技能者講習を受講し、修了する必要があります。

要件2 実務経験

主任技術者として認められようとする建設業種について、10年以上の実務経験を有していることが必要です。
ただし、特定の講習の種目によっては、特定の時期(平成30年3月31日以前)までに10年以上の実務経験がある場合など、例外的な取扱いがあるため、各々の状況に応じて確認が必要です。

国土交通省「登録基幹技能者講習修了証の様式について」より引用

要件3 3年以上の職長経験

当該基幹技能者の職種において、3年以上の職長経験を有している必要があります。
この3つの要件を満たした技能者は、特定の建設業の種類において、主任技術者として認められることになります。

(4)登録基幹技能者講習と対応する工事別一覧

主任技術者として認められるためには、行いたい工事の種類と、修了した登録基幹技能者講習の種目が対応している必要があります。

以下に、添付資料に基づき、主な工事種別とそれに対応する講習の種目の一部を抜粋してご紹介します。

  • 土木一式工事:登録橋梁基幹技能者、登録トンネル基幹技能者、登録基礎工基幹技能者
  • 建築一式工事:登録型枠基幹技能者、登録建築大工基幹技能者
  • 大工工事:登録建築大工基幹技能者
  • 左官工事:登録左官基幹技能者
  • とび・土工・コンクリート工事:登録鳶・土工基幹技能者、登録コンクリート圧送基幹技能者、登録機械土工基幹技能者、登録PC基幹技能者
  • 石工事:登録石工基幹技能者
  • 屋根工事:登録板金基幹技能者、登録瓦基幹技能者
  • 電気工事:登録電気工事基幹技能者、登録送電線工事基幹技能者
  • 管工事:登録配管基幹技能者、登録ダクト基幹技能者、登録冷凍空調設備基幹技能者
  • タイル・れんが・ブロック工事:登録エクステリア基幹技能者、登録タイル張り基幹技能者、登録ALC基幹技能者
  • 鋼構造物工事:登録鋼構造物基幹技能者
  • 鉄筋工事:登録鉄筋基幹技能者、登録圧接基幹技能者
  • 舗装工事:登録舗装基幹技能者
  • しゅんせつ工事:登録海上紀重基幹技能者
  • 板金工事:登録建築板金基幹技能者
  • ガラス工事:登録が硝子工事基幹技能者
  • 塗装工事:登録建築塗装基幹技能者、登録外壁仕上基幹技能者
  • 防水工事:登録防水基幹技能者、登録外壁仕上基幹技能者
  • 内装仕上工事:登録内装仕上工事基幹技能者
  • 熱絶縁工事:登録保温保冷基幹技能者、登録ウレタン断熱基幹技能者
  • 電気通信工事:登録電気工事基幹技能者
  • 造園工事:登録造園基幹技能者
  • 建具工事:登録サッシ・カーテンウォール基幹技能者
  • 消防設備工事:登録消火設備基幹技能者

上記は一部を抜粋しています。また、複数の建設業種に対応する講習もあります。実際の全リストは国土交通省の資料等でご確認ください。

(5)登録基幹技能者の修了証の重要性

登録基幹技能者講習を修了すると、「登録基幹技能者講習修了証」が交付されます。
この終了証には、修了した講習の種目名とともに、対応する建設業の種類について「主任技術者の要件を満たしたと認められる」旨が明記されています。
この終了証こそが、建設業許可申請や入札参加資格審査などのおいて、主任技術者としての資格を証明する重要な公的書類となります。
また、修了証には有効期限が設定されている場合が多いため、期限切れで資格が無効とならないよう、定期的な更新講習の受講が必要です。

まとめ

登録基幹技能者は、現場のマネジメント能力が国に認められた資格といえます。
この資格と、10年以上の実務経験、3年以上の職長経験という要件を満たすことで、一般建設業の主任技術者として活躍の場を広げることができます。
建設業許可や主任技術者の配置でお困りの際は、当事務所へご相談ください。
皆様の状況に合わせた最適な技術者要件の活用方法を提案いたします。

グラス湘南行政書士事務所