建設業では、請け負った建設工事の全部またはその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる行為を「一括下請負(丸投げ)」と定義し、原則として禁止しています。
今回は建設業における一括下請負(丸投げ)」がなぜ禁止されているのかを解説します。
(1)一括下請負(丸投げ)はなぜ禁止されているの?
前述したとおり、一括下請負は原則、禁止されているわけですが、それがたとえ工事の一部であっても、その部分が独立して機能を発揮する工作物の建設工事である場合、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる行為も一括下請負に該当しますので注意が必要です。
さらにこの禁止は、元請負人と一次下請負人、一次下請負人と二次下請負人、あるいはその以下の下請負人間など、すべての請負契約の当事者間で適用されるのが原則です。
では禁止される理由についてですが、発注者は、元請け業者に施工実績、施工能力、経営管理能力など様々な能力を評価して工事を依頼しています。一括下請負が行われると、以下のような問題が発生し、この発注者の信頼を損なうことになりかねません。
信頼関係の崩壊
発注者が評価し、信頼した業者が施工しないことで、信頼を損なう。
中間搾取と品質の低下
不当な中間搾取が発生し、実際の施工に携わる下請業者の利益が圧迫され、結果的に工事の質の低下に繋がる恐れがある。
責任の不明確化
実際の施工責任の所在が曖昧になり、トラブル発生時の対応が難しくなる。
(2)一括下請負の例外と特例
一括下請負は原則禁止ですが、特定の条件を満たした場合にのみ、例外的に認められる場合があります。
それは、以下の民間工事の場合です。
民間発注の工事については、「共同住宅を新築する建設工事」を除き、事前に発注者の書面による承諾を得ることで、一括下請負が可能です。
一つ注意が必要なのは、「承諾」は、工事の最初の注文者である発注者からの承諾であり、元請負人(一次請け)から下請負人への承諾では認められません。
また、「共同住宅を新築する建設工事」は、民間工事であっても、承諾があっても一括下請負はできませんので注意が必要です。また、国や地方公共団体などが発注する工事についても、一括下請けは完全に禁止されています。
(3)違反となる一括下請負の具体例
一括下請負に該当するかどうかは、請け負った建設工事一件ごとに判断されます。以下のようなケースは、たとえ部分的な下請負であっても、「丸投げ」と見なされる可能性が高いため注意が必要です。
主たる部分が丸投げ
建築一式工事を請け負った元請けが、内装仕上工事のみを自社で行い、他のすべての工事を下請に任せる。
付帯工事のみの施工
外壁塗装工事を請け負った元請けが、足場設置工事のみを自社で行い、塗装工事を下請に任せる。
独立機能部分の丸投げ
戸建分譲住宅6戸の新築工事を請け負った元請けが、そのうち1戸の新築工事を自らは施工せず下請に任せる。
上記の例のように、「付帯工事」のみを元請が実施し、本体工事を下請に任せるケースや、請け負った工事の一部であっても独立した機能を持つ部分を丸投げするケースは、一括下請負と見なされます。
(4)違反を避ける「実質的な関与」とは?
一括下請負の禁止規定を回避し、適正な施工体制を構築するために、元請負人には下請負人の施工に「実質的に関与」することが求められます。
「実質的な関与」の定義
「実質的な関与」とは、元請負人自らが、以下の事項について責任を持って行うことを指します。
・施工計画の作成
・工程管理
・品質管理
・安全管理
・技術的な指導
単に工事現場に主任技術者や管理技術者を配置しているだけでは、「実質的な関与」をしているとは言えません。技術者を配置した上で、上記の管理・指導業務を確実に実行し、元請・下請それぞれの役割を果たすことが必要となります。
元請負人が果たすべき役割
1.施工計画の作成
請け負った工事全体の施工体制台帳などの作成や下請負人が作成した施工要領書などを確認し、必要に応じて修正を指示するなどが挙げられます。
2.工程管理
請け負った工事全体の進捗状況を確認し、元請負人と下請負人間での工程調整を行う。
3.品質管理
請け負った工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認、必要な資材の確認や発注者との協議、調整を行う。
4.安全管理
安全確保のための協議会などへの参加、作業場所の巡回など請け負った工事全体の労働安全衛生に基づく措置を行う。
5.技術的指導
請け負った工事全体の主任技術者や監理技術者の配置等の法令遵守や、職務遂行の確認や現場作業に係る実施の技術的指導を行う。
下請負人が果たすべき役割
一方、下請負人は、元請負人の指示のもと、自らが請け負った範囲の工事について、以下の事項を主体として行うことが求められます。
1.施工計画の作成
請け負った範囲の工事に関する施工要領書等の作成・提出
2.工程管理
請け負った範囲の工事に関する進捗確認
3.品質管理
請け負った範囲の建設工事に関する施工
4.安全管理
請け負った範囲の安全衛生に基づく措置
5.技術的指導
現場作業に係る実施の技術指導
まとめ
一括下請負の禁止は、建設業を営むすべての事業者が遵守しなければならない、基本的な遵守事項です。この規定は、発注者の信頼を損なわないため、そしてすべての建設業者が健全に利益を確保し、適切な環境で工事を進めるためにあるものです。
「実質的な関与」の要件を満たしているか、今一度、確認することをおすすめします。
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