建設業の現場において、元請業者と下請業者の信頼関係は施工の質を左右するほど、大切な事柄といえます。しかし、残念なことに元請業者の立場を利用した不当な要求があるのも事実です。特に、特定の資材や機械の購入を一方的に強制されるケースは、下請業者の利益を削り、経営を圧迫する深刻な問題です。
今回は、令和6年と令和7年の法改正によってさらに厳格化された取引適正化に基づき、不当な購入要求への法的根拠と対処法を解説します。

不当な購入強制の禁止

建設業法において、元請負業者がその優越的な地位を利用して不当な要求を行うことは厳格に禁じられています。

元請業者は、下請業者に対して、その注文した工事の施工に関して資材、機械器具、その他これらに類する物品を、元請業者が指定する者から購入されたり、利用させたりしてはいけません。
もちろん、施工の品質や安全性の観点から、この特定のメーカーのこの品番を使ってほしい、という指定が合理的な場合もあります。しかし、それによって下請業者側の正当な利益を害し、特定の業者に利益を誘導するような行為は不当とみなされます。

建設業取引適正化と最新の法改正

昨今、建設業界では大きな転換期を迎えています。いわゆる2024年問題(残業上限規制)や資材高騰に対応するため、建設業法及び公共工事入札契約適正化法の改正が進んでいます。
この改正の核心は、取引の適正化にあります。

改正の重要ポイント:標準労務費と価格転嫁

改正法では、新たに標準労務費の勧告制度が導入され、労務費を削るような不当に低い価格での契約締結が禁止されました。
元請業者が不当に高い資材を強制的に買わせる行為は、実質的に下請代金の中身を削る行為であり、この適正な価格転嫁を妨げるものとして、これまで以上に厳しい監視の対象となります。

項目従来の慣習今後(取引適正化)
資材購入元請業者の指示には従うのが慣習経済合理性がない強制は違法
価格転嫁下請業者がしぶしぶ了承(苦渋の了承)労務費を確保し、適切に転嫁するもの
契約書曖昧なままでも進めてしまう電子申請(JCIP)時代に向けた明確な記載

不当とされる具体的なNGケース

何がNGで、何がOKなのでしょうか。取引適正化ガイドライン等に照らし合わせると、以下のようなケースは不当である可能性が極めて高いです。

リベート目的

元請業者の役員が経営する会社から、市場価格を大きく上回る価格で資材を買わされる。

在庫処分の押しつけ

元請業者が抱えている過剰在庫や、中古の古い機械を買わされる。

一方的な相殺行為

下請業者側の合意なく、勝手に資材代として代金から天引きされる。

不合理な指定

指定された資材を使う理由が、設計図書にも現場の安全性にも一切関係がない。

購入強制が許可業者にとっては大きなリスク

多少の無理なら聞いておこうと、判断されることもあるでしょうか。しかし、そこには大きなリスクが潜んでいます。

①行政処分(指導・勧告・指示・営業停止)

国土交通省や都道府県の調査によって建設業法違反が認定されれば、元請業者は厳しい行政処分を受けます。

②建設業許可の維持への影響

コンプライアンス(法令遵守)に欠ける業者は、公共工事への入札(経営事項審査)で不利になるだけではなく、許可の更新時にもマイナスの影響を与える可能性があります。

③デジタル化(JCIP)への対応遅れ

2025年以降、神奈川県内でも建設業許可申請の電子化(JCIP)が本格化しています。取引の透明性が高まる中、不透明な取引は通用しなくなっています。

不当な要求を受けた時は?

万が一、元請業者から不当な要求を求められたら、以下のステップで対応を検討してください。

①理由を書面で求める

なぜこの資材である必要があるのか?
なぜこの販売店なのか?

メールや書面で問いかけをすることが肝要です。
正当な理由がない場合、元請業者側も証拠を残すことを嫌がり、要求を引いてくる場合もあるかもしれません。

②契約締結前の見積が鍵

令和7年1月の法改正では、契約締結前の見積段階での適正化が重視されています。資材の支給や購入指定がある場合は、あらかじめ見積書に明確な根拠と価格を反映させるよう働きかけましょう。

③専門家という駆け込み寺の活用

自社で交渉が難しい場合は、行政の相談窓口(建設業取引適正化センター)を活用してください。また、当事務所ではこのようなトラブルを未然に防ぐための契約書チェックやコンプライアンス体制の構築をサポートします。

まとめ

建設業界は昨今、旧来の体質から適切な利益と労務費を確保するという取引適正化の時代へシフトしています。
不当な資材購入の強制を拒否することは、自社の利益を守るだけではなく、建設業界全体の健全化に貢献することにも繋がります。特に特定建設業許可を持つような元請業者には、下請業者に対するより高度な指導監督義務が課せられています。
少しでも不安に思われたら、当事務所へお気軽にご相談ください。法改正の波を正しく捉え、持続可能な経営を目指していきましょう。
グラス湘南行政書士事務