建設業許可を取得する際、様々な要件をクリアしなければならない訳ですが、その中でも特に重要な、「財産的基礎要件」について、ご理解されていますでしょうか。

この要件は、建設工事を適切に行うために必要な、資金力を有していることを証明するものであり、許可要件の可否を左右する、重要な要件の一つです。財産的基礎要件を満たすための証明書類のなかでも、金融機関が発行する残高証明書は、発行のタイミングを誤ると、申請の遅れにつながる可能性があります。

今回は財産的基礎要件と金融機関の残高証明書発行のタイミングについて解説します。

(1)残高証明書の役割と要件

残高証明書は、申請者が許可申請時点において、建設工事の請負契約を履行するに足りる財産的基礎を有していることを、客観的に証明する書類です。そして、一般建設業と特定建設業では許可要件が異なります。
一般建設業許可の場合(以下のいずれか)
・自己資本の額が500万円以上であること
・500万円以上の資金調達能力を有していること

特定建設業の場合(以下の全て)
・欠損比率が20%を超えないこと
・流動比率が75%以上であること
・資本金が2,000万円以上であること
・自己資本の額が4,000万円以上であること

残高証明書は特に、一般建設業における資金調達能力の証明において役割を果たすケースが多いです。

(2) 発行のタイミングと重要性

多くの許可行政庁は、残高証明書の有効期限を発行から1ヶ月以内としています。この期限を過ぎてしまうと、新たに取得し直さなければなりませんので注意が必要です。
なぜ有効期限が1ヶ月以内と短いのかについては、許可行政庁が許可申請時点における財産的基礎を確認したいからです。
申請書類が一式揃った段階で、申請が受理されるため、残高証明書の有効期限内に他の必要書類も準備を整えておく必要があります。

(3) 申請内容別の発行タイミング

(新規許可申請の場合
新規許可申請においては、申請予定日の2~3週間前に残高証明書を、取得することをおすすめします。理由を以下に挙げます。
・他の必要書類の準備期間を確保できる
・有効期限内での申請が確実に行える
・書類の不備があった場合の修正時間を確保できる

(更新申請の場合
通常、更新申請では、残高証明書は不要です。しかし、決算変更届の提出状況も考慮する必要があり、直前期の決算変更届が未提出の場合は、その提出後に、残高証明書が必要になる場合があります。各都道府県により、異なる場合がありますので、管轄の許可行政庁に確認する必要があります。

(業種追加申請の場合
建設業許可を取得してから、5年を経過せずに業種追加を行う場合は、注意が必要です。これは更新申請直前の決算の財務諸表において、500万円以上の自己資本の証明が必要です。自己資本が満たない場合、業種追加申請時において、残高証明書が必要になります。その際は、新規申請時と同様に、申請予定日の2~3週間前に取得することが望ましいです。

注意点として、金融機関によっては残高証明書の発行に数日から1週間以上を要する場合があります。各金融機関に発行予定日を確認し、処理期間も考慮したスケジュール調整が必要です。

よくある失敗事例

・有効期限切れ
他の書類準備に時間がかかり、前もって取得していた残高証明書の有効期限が切れてしまうケースです。
・基準日の不整合
残高証明書の基準日と申請書記載の財務状況が異なる場合、追加資料や補正を求められるケースです。特に、大きな入出金があった場合に起こりやすい事例です。
・金融機関の営業日確認漏れ
金融機関は原則、土日祝日は休業日なのですが、それを考慮せずに必要な時期に残高証明書を取得できなかったケースです。

(4) 実務上の対策

・すべての残高証明書の基準日を統一する
複数の金融機関に口座を有している場合、合算して要件を満たす必要があります。この場合、基準日が異なることで、指摘される可能性があるため、すべての残高証明書の基準日を統一することが重要です。
・法人と個人の口座管理
法人申請の場合でも、代表者個人の預金残高証明書を使用することは可能です。ただし、この場合は、代表者からの借入や出資の意思を明確にする書面が必要です。
・発行手続きや所要日数の把握
金融機関の残高証明書発行手続きや所要日数を把握しておくことで、効率的な申請を行うことができます。

(5) 各許可行政庁の違いと電子申請

各許可行政庁で、残高証明書に関する取扱いに違いがありますので、申請前に必ず管轄行政庁の最新の手引き等を確認する必要があります。
また、電子申請が導入されている行政庁では、書類の提出方法や有効期限の取扱いが、従来と異なる場合があるため、注意が必要です。

重要なことは、残高証明書の取得を単独で考えるのではなく、申請書類全体の準備状況を考慮したスケジュールが必要になってきます。
建設業許可申請は、膨大な書類と様々な要件が求められる、複雑な手続きです。残高証明書ひとつとっても、発行タイミングが申請全体の成否を左右します。当事務所では建設業許可申請を承ります。お気軽にご連絡下さい。

グラス湘南行政書士事務所